困った。そりゃあ困った。
何が困ったって、俺がここにいることがである。
どうして俺がここにいるかって、左門が迷子になったって言うから捜しに出たんだ。裏山あたりにいるだろうと予想して。
そうしたら、自分が迷子になってしまったんだ。


「ここはどこなのだろう」

返事は無い。
先程から雨も降り出してきたから、のろしをあげることもできない。どうやって帰ろうか。忍術学園はどっちの方向だったかな。





「あ、久々知先輩!」
「どうした浦風、慌てて」
「作兵衛見ませんでしたか?」


バタバタと足音も潜めず浦風が走っていた。浦風は俺を見つけて俺を呼んだ。どうしたのかと思ったら、富松を捜しているらしい。記憶を思い返す、富松を見ただろうか。

「いや、見てないな」
「そうですか…」
「何かあったのか?」

三年生が走り回ると言えばあの方向音痴のこととしか思えないが。聞けばやっぱり神崎が迷子になったらしい。

「ただ、まだ問題がありまして…」
「次屋もいなくなったのか?」
「いえ違います。名前がいなくなったんです」

名前が。あいつは馬鹿なのか。自分が方向音痴であることを自覚していない。方向音痴とはいってもあの二人ほどでは無いが。
雨も降ってきている。きっと困っているだろう。

「俺が捜しに行こう」
「え?」
「浦風は富松を捜してこい」





雨が本格的に降り出した。寒いなあ。
たまたま見つけた岩穴は山賊の住家でも熊の寝床でもなかったので、そこで雨宿りをすることにした。

「左門の馬鹿やろー」

俺が迷子になっちまっただろう。捜しになんて行かなきゃ良かった。大人しく作兵衛を待てば良かった。
誰か捜しに来てくれないかな。作兵衛や藤内だったら怒鳴られるな、数馬だったらにっこり笑ってくれるけど怖いな、孫兵なら無表情で威圧感与えてくるな。あとあと、誰か捜しに来てくれる人はいるだろうか。

「久々知先輩とか、来てくれないだろうか」

いや来ないだろうな。ただ同じ委員会の後輩ってだけで来てくれるとは思えない。願望にも程がある。ため息をついて外を見た。まだ雨は降っている。


「名前」

誰かに呼ばれた。顔を上げれば人影が見えた。傘も刺している。誰だろう。作兵衛や藤内に比べたら背が幾分か大きい気がする。孫兵でもこんなに大きくない。三之助は、来るはずない。
じゃあ誰だ?


「名前、やっと見つけた」
「…久々知先輩?」
「ほら、こっち来い」


なんと、久々知先輩だった。
傘の中に入れてもらうと手を引かれた。帰るぞ、と久々知先輩は前を見る。

「なんで久々知先輩が?」
「人手が足りなさそうだったからな」
「はあ…。どうして俺がここにいると」
「何となく」

曖昧すぎる。一歩下がって歩いていたら、濡れるから横に来いと言われてしまった。
やはり久々知先輩が来てくれたことに違和感というか、不自然さを感じる。さっき久々知先輩に来てもらいたいなんて言っていた奴の言うことではないだろう。


「まだ賦に落ちないのか」
「はい」
「俺じゃ嫌だったか?」

「そんなことはありませんっ!」



なら良いじゃないか、と久々知先輩は笑った。見たことが無いその表情にドキッとした。
俺、久々知先輩好きだなあ。






「さっさと帰るぞ。浦風が心配していた」
「はい!」



2010.05.13
キリ番38000番リクの久々知でした。どうせならと後輩主で書いてみたものの、なんか撃沈…。
リクしてくれた崇さんのみお持ち帰り可です!
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