「作兵衛お願い、やって」


そう言って両手を広げる名前先輩が、すごく嫌いだった。
ギリ、と歯を食いしばって名前先輩を見る。憎しみとか嫌悪とかそんな感じの感情を込めた目で見たけど、名前先輩は気にしていないのかそんなの効かないのか、変わらずあの切ない目で俺を見る。

「なんで、俺なんですか」

「作兵衛じゃなきゃ駄目なんだよ」

「だから、なんで俺なんですか」


何度イヤだと断ったか、何度イヤだと泣いたか。けれど名前先輩はこうして俺を呼び出してはそれを催促する。少しだけ、名前先輩は気狂いなのではと思う。
今回でもう、127回目だ。その度に俺は泣いてしまうからいい加減枯れ果てるのではと思う。そんなわけないけど。



「作兵衛、俺のこと嫌い?」


何もせずに立っていた俺を名前先輩は引き寄せ、その腕の中におさめる。ぎゅっと抱きしめられる。
ああ、血の臭いがする。吐き気がする。



「俺は、作兵衛が好きなんだ。どうしようもない、作兵衛がいなきゃ駄目」


そう甘い言葉を言って名前先輩は俺のまぶたに口付ける。それから頬、耳、首…。
名前先輩が俺のことを好いてくれているのは嫌というほど分かる。
そして、本当は嬉しくないわけではない俺がいるのも分かる。




「……俺も、名前先輩のこと好きです」



嬉しい、と笑う名前先輩に胸が痛くなった。ああ、こうやって言い出せなかったのも127回目である。
名前先輩のこと好きだけど、できるなら普通に出会いたかった。良い先輩じゃなくていいから、普通に恋してドキドキしていたかった。こんなのは苦しいだけ。

さくべ、と催促する名前先輩の目を見て鼻の奥がツンとした。
そして名前先輩の首にかじりついた。





「作兵衛、じゃなきゃ」



愛されるのは嬉しいけど、こんなのは嫌です。
口の中に錆の味が広がった。



2010.05.05
電波な主人公に、そんな主人公に夢を見ていた純粋作兵衛。
下級生に無理矢理攻めさせるのも好きです。
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