「左門と喧嘩した!」



もう床に着こうとしていた。
欠伸が出たのでジュンコにおやすみを言って布団に入ろうとしたら、勢いよく戸を開けて名前がやってきた。
何なんだ、左門と喧嘩したって。喧嘩したから何なんだ。


「喧嘩したから泊めてくれ」
「ああ、そういうこと」


名前と左門は確か同室だった。
押し入れから普段使われていない布団を引っ張り出してやると、ありがとうと笑って名前はそれを受け取って敷いた。
灯を消して、布団に潜り込んだ。
目が冴えてしまっていた。

「ねえ名前」
「んー?」
「何で左門と喧嘩したの?」
「……忘れた」


何だそれ。
じゃあ何で名前はここにいるんだと聞けば、来たかったから?と首を傾げながら答えられた。疑問形で返されても困る。



「まあそんなことより、聞いてくれよ!さっき三之助がさぁ…」




この脳天気野郎は散々話し続けて、さっきようやく眠りについた。だけど僕に眠気は来てくれなくてため息をついた。どうしてくれようか。明日は実習があるから眠りたいのに。
こうなることは分かっていたのに、名前を追い返すことができなかったのは少なからずとも僕が名前のことを嫌っていないからである。
……あと、ジュンコが名前のことを好きなのだ。




目を覚ますと、名前はいなかった。布団は押し入れに仕舞われていた。
ああ、部屋に戻ったのか。
少し寂しい感じがしたのは気のせいだ。





「……2人は喧嘩していたんじゃなかったのか?」


朝飯を食べに食堂へ向かうと、仲良さそうに朝飯を食べている名前と左門がいた。もちろん、目を疑った。
この疑問だけはどうもすっきりさせたくて、素直に僕は名前に聞いた。
名前と左門はきょとんとした顔で僕を見た。
意味が分かったらしく名前は笑ったけど、分かっていない左門はまだきょとんとしていた。
にしし、と笑って名前は答えた。



「どうせ朝になれば喧嘩してたの忘れてるんだから、ちょっと雰囲気でも出してみようと思っただけだよ」

泊めてくれてありがとな。


続けて名前はそう言って、止めていた手を動かした。
ああ、つまり僕は君の自己満足のために利用されていたわけだ。






到底理解できない

(そもそも喧嘩したことを寝ただけで忘れてしまうことが信じられないんだ!)



2009.10.19


振り回される孫兵も可愛いと思います。
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