「苗字、ってヤツいなかったか?」


ふと浮かんできた誰かの苗字。
だけど顔は思い出せなくて、私はいつもの3人に聞いてみた。
雷蔵はきょとんとして、少し考える仕草をした。ああ雷蔵可愛い。

「ごめん。わかんないや」
「お前がたぶらかした女の苗字じゃねえの?」
「いや。そういうのは綺麗さっぱり忘れる仕組みになっている」
「都合の良い頭だな」


人間、そういう方が楽に生きていけるのだよ。
雷蔵と八左衛門がお手上げしている中、兵助だけが考えていた。もしかして思い出せそうなのか?

「その…苗字は忍術学園にいた気がする」
「え?」
「もしそうだとして、何で思い出せないんだ?」
「……三郎、苗字の特徴とか覚えてないか?」


特徴?
生憎、顔は全く覚えてないんだ。馬鹿にされた記憶ならあるんだが。

「三郎を馬鹿にするなんてかなりの大物だな」
「ああ思い出した。確か苗字は、私と立花先輩を足して2で割ったような人だった」
「三郎と立花先輩を!?」
「そりゃあ大物だ…」


話しているうちにだんだん思い出してきた。
そうだ。苗字はいつも私を下に見てきた。見下すのではなく、大人が子供にとるような態度で。

「うーん…思い出せないな」
「兵助は?」

八左衛門にそう聞かれた兵助は首を横に振って答えた。
思い出せないというのはどうもすっきりしない。どうにかしてすっきりさせたい。


「立花先輩なら知ってるんじゃない?」
「何で?」
「ほら、その苗字が三郎と立花先輩を足して2で割ったような人なら先輩も絶対知ってるって。それに…」
「それに?」

「似たもの同士は反発し合うんだよ」




雷蔵いわく、反発し合うからこそいつも言い合ったり何なりしていたんじゃないか。
潮江先輩と食満先輩のように。
だから覚えてるはずだ、と。

何となく言っていることは分かるような気がするので、気が進まないが立花先輩に聞くことにした。
生憎これから皆、委員会があるらしく私は一人で立花先輩を捜すことになった。
見つけるのはそう難しくなかった。

立花先輩は廊下の曲がり角で誰かと話している。
あの先輩が表情を露にしていることに驚きながら、私は声をかけようと近づいた。
そして視界に入ったのは、感極まって涙している立花先輩と…―――





「―――…苗字?」


「やあ、鉢屋」


思い出した。全部思い出した。
ああそうだ。こいつはこんなヤツだった。へらへらした態度で私のいたずらも何もかもかわしていく。
そしていつだったか、急に消えたんだ。

この私が感極まって泣く時がくるとは思わなかった。
へらへらした、優しい手が私の方へ伸びてくる。ああ、もう少しで届いてしまう。



なかないでどうかあんなおとこのために



"しかし、私に会ってしまうとはお前達も不運な"



2009.10.13

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