「善法寺先輩っ」 医務室の戸が開いていたので覗き込むと、不破先輩に教えてもらった通り、善法寺先輩がいた。 名前を呼ぶと、やあ、と笑顔を見せてくれた。 ああ、俺この先輩好きだ。 「どうした?どこか怪我でもした?」 「あ、いえ。そんなことは全然」 「じゃあ僕に会いに来たのかな?」 「そうです」 「え、冗談なんだけど」 「善法寺先輩に会いに来ました」 え、あ、えっと、 なんてあたふたしてる先輩の正面に座る。 今日の当番は先輩一人らしく、後輩は誰もいなかった。これなら遠慮なく話せるもんだ。 「と…とりあえずお茶でもどうぞ」 「ありがとうございます」 医務室のお茶美味しいんだよなー。 出してもらった湯呑みに三反田の名前が書いてあった気がするけど見なかったことにしよう。 「…で、どうしたの?」 「あ、はい。実は先輩に聞きたいことがあって」 「聞きたいこと?」 「先輩はおっぱいの大きさはどれくらいが好きですか?」 「大きいのだね」 「即答されて俺びっくりしてるんですが」 いや、本当にびっくりしてんだけど。 流石に6年生ともなると大人だな…。どこか生々しいもんな。いや、善法寺先輩よりも七松先輩とか立花先輩が言った方が生々しいか…。 「伊作ー」 「あ、留三郎!また文次郎と喧嘩したな?」 「…すまない」 「そう思うなら怪我しないでよ」 随分の常連らしい、食満先輩が医務室に来た。 所々に怪我しているのが見えて、ああまた潮江先輩と喧嘩したのかと思考が繋がった。 「よう、苗字」 「食満先輩こんにちはー」 「お前が医務室にいるなんて珍しいな」 「留三郎が来過ぎなの」 「いっ…!」 食満先輩の腕に巻いていた包帯を思い切り善法寺先輩は締めた。 あ、あんまりやると血止まっちゃうんじゃ……。 「そんなことより苗字、もしかしてさっきのこと皆に聞いてる?」 「へ?あ、はい、まあ」 「留三郎にも聞いてみたら?」 「え、え!?」 「なんだ?何でも聞いてみろ」 そんな畏まって聞ける内容じゃないじゃないか! ほら、食満先輩は真面目な質問が来るんじゃないかと真剣な顔だし。 俺の葛藤と食満先輩の真剣な顔を見ながら善法寺先輩は声を殺して笑っている。 「苗字?」 「お、俺には無理です…善法寺先輩……」 どうせ俺はヘタレだよ! 白旗を上げた俺に善法寺先輩は遠慮なく笑った。この人こんなに意地悪だったのか。 食満先輩は状況が読めなくて首を傾げている。 「あのね留三郎、苗字は留三郎の好みが聞きたいんだって」 「好み?」 「おっぱいの」 「はあ?」 「こ、こうなるのが怖かったんですよ…」 「留三郎、口が開きっぱなしだよ」 「……苗字、何のためにそれを聞くんだ」 「そんなのただの興味に決まってるだろ」 「じ、女装の時の参考にするためですっ!」 胸の詰め物のことです! 懸命に弁解したのが伝わったのか、ただ俺の気迫に押されただけなのか食満先輩は、そうか、と頷いてくれた。 しばらく悩んでいる食満先輩を見て、善法寺先輩はまたニヤニヤしている。 なんだこの人、本当に意地が悪い。 「留三郎はね、小さい方が好きなんだよ」 「伊作っ!」 「そうなんですか」 「……………まあ」 食満先輩も可哀相に! 俺がヘタレじゃなかったらもっと自然にかつ、こんな恥をかかずに聞き出せたのに。多分。 でも小さいのが好きって人は初めてだ。 やっぱりでかけりゃ良いってもんでもないよな! 「僕たちで最後?」 「え、まだ残ってますけど…」 「誰?」 「…立花先輩、潮江先輩、七松先輩に中在家先輩です」 「そっか。呼んであげよっか?」 「遠慮しておきます!」 この人にかかっちゃ、冗談混じりの暴露大会も冗談が混じらなくなる! 自力で捜します、とはっきり言うと、残念、と返ってきた。お、恐ろしい…。 「それじゃあ、失礼します」 「うん。報告待ってるよー」 廊下に出てから、善法寺先輩のそんな声を聞いた。 振り返れば笑顔で手を振っているではないか。 いや、ちょっと待てよ。 俺は全員に聞いた結果を善法寺先輩に報告しなければならないのか? 2009.10.12 |