どうにか俺が放してもらったのと同時に、平太が来た。これで用具委員会集合だ。
だが委員会が始まる気配はまだ無い。
その理由は2人がまだ言い合いを続けているからだ。

内容は少し発展して、苗字先輩を用具委員会に入れるかどうか。
苗字先輩本人はとてもやる気があるのだけど、食満先輩が受け入れようとしない。


「何で苗字先輩が入るの嫌なんですか?」


素直に疑問に思った俺は聞いてみる。
1年の3人も一緒に首を傾げた。
何を言っているんだ、とでも言いたさそうに食満先輩が俺を見る。

「人数少ないですし、上級生が一人増えるだけでかなり違うと思うんですけど」
「作、お前は知らないのか」
「へ?」

嫌そうな顔で食満先輩は苗字先輩を指さす。
苗字先輩に何かあっただろうか。


「こいつ、壊し屋だぞ」
「は?」
「俺たちが直してるものの四分の一はこいつが壊したものだ」
「ええぇっ!苗字先輩まじですか!」
「あー、らしいねぇ」
「しかも無自覚だ」


無自覚。そう聞いて三之助を思い出した。
無自覚がどれくらい面倒臭くて厄介かは俺自身よく知っている。
まさか、苗字先輩がそんな…。

「直してくうちから壊されるのは勘弁してもらいたい」
「俺が壊してるんじゃないですよー、勝手に壊れるんです」


三之助と同じことを言う。これは本当に無自覚だ。顔が引き攣った。
苗字先輩に用具委員会に入って欲しかったけど、これはちょっと悩む。どうしよう。

「ほら、作兵衛も困った。お前は無理だ苗字」
「あ、や、その!」
「いーよ作兵衛。お前なら許す」
「諦めるんだな」
「んー……」



もう諦めるしかないかな、なんて小さく苗字先輩は呟いた。

お、俺が無自覚だって知ってからあんな態度とったから…?
これが原因で苗字先輩がもう俺と話してくれなくなったらどうしよう。きっと用具委員会にももう顔を出してくれなくなる。
俺のせいだ…!



「せ、先輩!」

下を向いている苗字先輩の服を引っ張って俺は先輩を呼んだ。
どうした?なんて言う先輩は少し悲しそうだった。



「俺は、せ、先輩に用具委員会に入ってほしいですッ…!」


い、言った。言ってしまった。
ここら一帯の時間が止まった気がした。俺すげー恥ずかしいこと言った!
誰も何も言わないから凄く不安になって、顔を上げて先輩を見た。


「ッ作兵衛ぇっ!!」
「え?うわっ!」
「俺すげー幸せ!今なら鉢屋にからかわれてもニコニコできる!」
「は、え、へ?」


つい数刻前にようやく放してもらったのに、また先輩の腕の中。
突然のことで思考が追いつかない。
誰か説明して…!


「僕たちも苗字先輩が入ってくれると嬉しいですー!」
「苗字せんぱーい!」
「お前らーっ!!」


先輩は1年生も一緒に抱きしめる。うわ、体でかい。
そんな俺たちを見て、食満先輩がため息をついた。

「食満先輩…」
「留三郎先輩、俺自分が壊したものを直します」


抱きしめた俺たちを放して、苗字先輩は食満先輩に向き合う。今度は真面目な表情で。




「だから、お願いします」



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