「竹谷先輩、今お暇ですか?」



背中に作兵衛をつれて、僕は何故か5年長屋にいた。理由はよくわからない。
作兵衛が竹谷先輩に話があるんだけど話しかけにくいから僕に助けを求めてきたからこうなった。別に僕は竹谷先輩に用事は無い。


「おう暇だぞ!どうした?」
「僕じゃなくて作兵衛が…」
「富松?」
「はい」


作兵衛は竹谷先輩を睨みつけるように見た。真剣な話なんだと分かる。
どんな用なのか特に興味も無かったがちょっと気になってきた。
まあ座れ、と竹谷先輩は立っていた僕らをそう促した。作兵衛は素直に従って座った。

「僕はいても良いの?」
「……多分、大丈夫」

作兵衛が曖昧ではあるがそう答えたので僕も座った。
作兵衛も竹谷先輩も真剣な表情でいる。
しばらく沈黙が続いて、それからようやく作兵衛が口を開いた。



「先日、名前先輩と不破先輩の間に何かあったのではないかと思います。何があったのか教えてください」


名前先輩…?あ、苗字名前先輩?
最近、用具委員会に入ったっていうあの人か。
ここのところ話題の中心があの人ばかりなき気がする。
竹谷先輩はうーんと唸って申し訳なさそうに作兵衛を見た。あ、この人知らないんだ。



「悪い。それに関しては俺も知らないんだ」
「そう…ですか」
「でも」


そう言って竹谷先輩は僕たちの後ろを見た。
振り向いてみるとそこには不破…いや、不破先輩に変装している鉢屋先輩が立っていた。


「三郎は俺より知ってるよな」
「ああ」
「話してやってくれ」


鉢屋先輩は僕たちの横を通って正面に座った。
作兵衛はその一連の動作をじっと見つめていた。



「詳しいことまでは知らないが、雷蔵が苗字を怒らせてしまったようだ」
「名前先輩が怒った…?」
「そんな感じしないな。だがあれは絶対に怒った」
「見ていたんですか?」
「いや。雷蔵が混乱したまま話したのを聞いただけだ」


僕は苗字先輩を知らない。
けど、今の話を聞けば怒らない人らしい。そんな人がいてたまるものか。


「気づいてるかもしれないが、雷蔵は苗字が好きだ」


やっぱり、と隣から小さく聞こえた。
僕は本当にここにいて良かったんだろうか。竹谷先輩をちらっと見ると眉をひそめた。ここまで聞いたなら最後まで聞けという意味だろうか。
途中退室は今更もうできないだろう。

ただの付き添いである僕に構わず、鉢屋先輩は話し続ける。



「所々富松の名前を言っていたから指図、最近委員会で苗字と仲良くなった富松に嫉妬したというあたりだろう」
「……俺のせいですか」
「それは違う。お前は委員会の先輩である苗字と仲良くなっただけだ。これは当たり前のことだ」
「でも…」


作兵衛はどうも自分が悪いと言いたいらしい。
今の話を聞くと、どうもそうは思えない。
こんなことになったのは、不破先輩の異常な嫉妬によるものだと思う。それと独占欲。
でもどうして苗字先輩は怒ったんだ?



「あの、良いですか?」
「…ああ」
「部外者がすみません。どうして苗字先輩は怒ってしまったんですか?何か気に障るようなことでも…」


僕が聞くと、鉢屋先輩は竹谷先輩と目を合わせて眉間にシワを寄せた。
聞いてはいけないことだっただろうか。


「三郎、流石にこれは話さない方が…」
「私もそう思う」


悪いな、と竹谷先輩は眉を下げて謝った。
こちらこそ答えにくい質問をしてすみませんでした、と頭を下げる。




「さて、これで私が話せることは全部だ」
「ありがとうございました」


作兵衛と一緒に頭を下げて、部屋から出ようと立ち上がった。
すると、ああそうだ、と鉢屋先輩が言った。
それに呼ばれたように振り向けば、真剣な表情の鉢屋先輩と目が合った。




「苗字を怒らせてはいけない。アイツは呆気なく人を殺せるからね」
「…本気で怒らせたら、死にますか」
「死ぬ」











「悪いな孫兵。付き合わせちまって」
「いや。ねえ、苗字先輩に会ってみたいんだけど」
「ああ…名前先輩は今、学園長のおつかいに行ってていないんだ」
「そっか、残念。いつ帰ってくるのかな」
「明日…くらいじゃねえかな」
「……ねえ作兵衛」
「ん?」
「苗字先輩のこと、好きなの?」
「…先輩としてな」



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