僕が彼と出会ったのは2年生の時だった。

静かな夜だった。
湯浴み帰りの僕は髪から落ちる滴を気にしながら部屋に戻ろうと歩いていた。
部屋に戻ったらもう一度、手ぬぐいで拭かなきゃと思い手ぬぐいに触れたときだった。



どどー…ん


大きな音がしたのは。
その音の元へ駆け付けようとした何人かとすれ違い、自分も行こうと今来た道を引き返した。



そこにあったのは、半壊した塀だった。
皆がア然としていた。
塀が壊れること自体はそんなに珍しいことではない。
問題は、壊れる音がしたのは"先輩達が鍛練を行う時間ではなく"、壊したのは"僕と同じ2年生"というところである。
崩れた塀の前で、体に不釣り合いな掛矢(かけや)を持っている2年生はボーッとその塀を見ていた。



「何なんだ、この騒ぎは!」


先生がやってきた。
先生はすぐにこの騒ぎは塀が半壊したことにあって、あの2年生が原因だと分かった。

「名前は」
「苗字」
「……苗字、職員室へ来い。ほらお前らも長屋に戻れ!」


先生は2年生…苗字というらしい。苗字を連れて職員室へと帰っていった。
壊した本人がいなくなっては面白くない、皆長屋へ帰っていった。残っているのは僕を含めて十もいなかった。

「雷蔵」
「三郎、君も来てたの?」
「ああ。なあ雷蔵、職員室へ行かないか?」
「呼ばれてたっけ?」
「違う。苗字と先生の話を聞きに行こう」
「それって盗み聞き…」
「雷蔵だって気になるだろう?」
「……少しね」



嘘。
少しだなんて嘘。
本当は凄く気になっている。
苗字という人間を気になりだしたのはこの時からだった。



「あれ?兵助」
「シーッ」

職員室へ行くと兵助がいた。
聞くと彼も気になったらしい。
僕らも聞き耳を立てようと障子に近づくと、勢いよく障子は開いた。突然のことに驚き僕は部屋の中へ倒れ込んだ。


「大丈夫か?」

けど床に倒れ込むことなかった。どうやら僕は苗字に支えられたようだ。
ありがとう、とお礼を言って体制を整える。



「盗み聞きならもっとうまくやんなきゃあなあ」
「…はい」
「ほら、戻りなさい」


先生に帰されて、4人で長屋まで歩いた。
彼の名前は苗字名前で兵助と同室らしい。い組なんだ。


「あの塀はどうしたんだ?」
「用具委員会が直してくれるって」
「いやそういうことじゃなくて」
「どうやって壊したかだよ」


壊した?と一度彼は首を傾げた。
けれどすぐに何のことか分かったらしく、ああ、と声を上げた。



「練習してたんだよ」
「練習?」
「知ってるか?全ての物には…――」











掛矢(かけや)…大きいハンマー。



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