「先輩…」
「…手出すな」


酒買い過ぎたから着物はやめたって、名前先輩は笑って言っていた。時間があったら見ようと思ってたくらいだからとも言っていた。どうにも先輩の女装が想像できないので着物当ててる姿見たら少しは想像できるかな、なんて思ったけど。ちょっと残念。

もう日も暮れてきたし帰るかってことになって、帰り道をのんびり歩いてた。
そうしたらガサガサと音がして、そっちを見たら山賊が飛び出してきた。
俺を庇うように先輩は前に出た。


「金か」
「そうだ。イタイ目に遇いたくなきゃ有り金全部渡せ」

前に一人、後ろに二人と山賊が俺たちを囲う。どうしよう。手裏剣は持ってきていないし、名前先輩だって掛矢を持っていない。
ちらりと名前先輩を見ると、先輩は大丈夫と言った。


「嫌だね」


にやって笑ってそう言った先輩に山賊は刀を振り上げる。それに続くように後ろにいた山賊も切りかかってきた。

「作兵衛、一人頼めるか」
「え、はい!」

耳元で先輩はそう言って、山賊に向かっていった。
相手は刀を持っているけど素早さなら俺の方が速いから避けられる。一人どうにかすれば良いんだ。
幸、苦無を持っていた。
大丈夫、俺だって忍たまだ、3年生だ。






「最後」


名前先輩がそう言ったのと同時に、俺が相手していた山賊が倒れた。先輩が手刀を入れたのだ。

「お疲れ。怪我してないか?」
「はい、大丈夫です」
「んじゃ帰ろうか」


まるで何もなかったかのように名前先輩は言って俺の手を引く。慌てて俺は足を前に出す。


怪我してないと言えば特に心配しないで先を行く。けれど手を引いてくれる優しさがある。
名前先輩は怖い。それは先日の件でよくわかった。
でもそれ以上に、名前先輩は優しくて、俺を特別に扱ってくれて…。
どうしよう、本当に。
違うと言い聞かせてきた。ただ名前先輩は俺が後輩だから優しくしてくれるだけなんだって何度も言い聞かせた。
けれど駄目だ。
俺は



「名前先輩」



優しい手だった。
俺が呼ぶとゆっくりと先輩は振り返る。そして、どうした?と聞いてくる。
先輩の手を握る手が奮える。









「名前先輩が好きです」





止まらず



2010.03.06



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