名前先輩はまだ帰ってこなかった。
孫兵に帰ってくるかも、と言った日は3日前だった。
どうしたんだろう。実は敵にやられてて今生死をさ迷っていたり…もう死んでたり……あああ!



「さくべー?」


ほら幻聴まで聞こえてきた。
表門の掃除をしていた俺は、幻聴だと言い聞かせて掃除を続ける。


「え、ちょ、無視?作兵衛さん?富松作兵衛さーん?」


ぎゃああ!肩掴まれた!
恐る恐る後ろを見ると、そこには名前先輩がいた。
こ、今度は幻覚?
でもこうやって触れてるから違うか。て、ことは。



「おかえりなさい…?」
「おう、ただいま」


何で疑問形?と笑ったのは名前先輩だった。
か、帰ってきた…!
思わず俺は箒を投げ出して名前先輩に抱き着いた。

「俺、心配しました」
「へ?」
「予定より3日も遅れました」
「え、うそ。あちゃー…」
「帰ってきてくれて良かったです」

名前先輩が死んじゃってるかもとか悪い方向に考えてしまうのは俺の悪い癖だって分かってる。多分、先輩も分かってる。
だからきっとこうやって何も言わずに優しく頭を撫でてくれる。

「ごめんな作兵衛。心配してくれてありがとう」


それを聞いてようやく俺は先輩から離れる。
そこで先輩が前に出かけたときとは少し違うことに気がついた。


「先輩、その背負ってるの…何ですか?」
「ん?ああ、これか。これは掛矢だよ」
「掛矢…でかくないスか?」
「これで良いんだ」


その背負ってる掛矢は身体とは合っていない大きさだった。丁寧に風呂敷で包んである。
そんなに大きくて扱いにくくないのだろうか。

「先輩の武器ですか?」
「そうだよ」


鉢屋先輩が言った、名前先輩は呆気なく人を殺せる、というのを思い出した。
この大きい掛矢で頭を殴られれば一たまりも無いのだろうか。
……大丈夫だ。怒らせなきゃ良いんだ。
先輩は滅多なことじゃ怒らない優しい人だから。



「ほら、早く掃除を終わらせな。カステラを買ってきたんだ、皆で食べよう」

「は、はい!」



そう、大丈夫。



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