「そうだ、屋根の修理は?」 ついついのんびりしてしまっていたが、今日は屋根の修理をする予定であった。 始める気配が無い先輩2人に、聞いてみた。 「ああ、終わった」 「終わった!?」 「俺がちゃちゃーっと」 「お前が壊したんだから当たり前だ」 終わった、って何時やったんだ? 苗字先輩が直したって、だって先輩授業…。 食満先輩ならまだ分かるけど。 まさか、苗字先輩も午後は暇だったとか?自習? 「…って、苗字先輩が壊した?」 「え、あ、うん。色々ありまして」 壊し屋。 その単語が頭に浮かんだ。いやでも、まだそうと決まったわけじゃない。 首を横に振って、もう一口お茶を飲んだ。 「苗字先輩は、直すのも上手なんですね」 苗字先輩の膝の上にいる平太が言う。こいつ、いつまで乗ってるんだろう。 そうかー?なんてデレデレの笑顔で苗字先輩は平太を撫でる。 「だから今日は久しぶりにゆっくりしようかと」 「だからここにいたんですか」 「そゆこと」 たまにはのんびりしないと、なんて言う食満先輩を見て、確かに、と思う。俺たちは忙しすぎた。 それも正当な理由で。体育委員会や会計委員会とはまた違っていた。 まあ、その体育委員会や会計委員会のせいなんだけど…。 「せんぱーい!」 「遅れちゃいましたあー!」 なめ壷を持った喜三太と鼻水たらしたしんべオが走ってくる。 喜三太、なめ壷は持ってくるなと言ってるじゃねえか。 しんべエ、鼻をかめ。 「おー、おつかれー」 「あー!平太ずるい!」 苗字先輩の膝の上にいる平太に向かって2人はそう言う。 それを見て食満先輩が少し嬉しそうに楽しそうに、じゃあ俺のところへ来いと自分の膝を叩いた。 喜んで2人はその誘いにのる。2人を乗せた食満先輩は気持ち悪いくらいデレデレだった。 「……作兵衛も乗る?」 「ッ、乗りません!」 「遠慮しなくて良いのにー」 「苗字先輩、僕は苗字先輩を独り占めしたいです」 「アハハ、そっかー!」 くそ、平太なに言ってやがる。 喜三太としんべエじゃないけど、平太ずるい。絶対口には出さないけど。 お茶をぐいっと飲み干して、注ごうと立ち上がる。食満先輩は1年2人に夢中だ。 「食満先輩、饅頭はいいんですか?」 「おまんじゅう!?」 「先輩、おまんじゅうあるんですかぁ?」 「おお、そうだ。ちょっと待ってろ、持ってくる」 「ついてっても良いですかー?」 「僕もー!」 「ほら、平太も行っといで」 「はい」 1年ボーズを引き攣れて、食満先輩は饅頭を取りに向かった。 すると必然的に俺と苗字先輩の2人きりになるわけで。 「作兵衛、ほら」 「……だから、乗りませんて」 「あれ?平太を羨ましそうに見てたと思ったんだけど」 「…違いますよ」 違くないけど。 俺だってもう12だ。そんなこと甘ったれたこと言ってられない。 「誰も見てないから今のうちなのになー」 「…乗りません」 「……そっか」 じゃあ代わり、なんて言って頭を撫でられて抱きしめられた。 な、何かこっちの方が恥ずかしい! 「昨日寝てないんじゃないのか」 そう耳元で言われた。確かにその通りだった。 でもどうして? 「俺が屋根壊したのは学園中を騒がせたからさ。それを知らないってことは夜通し迷子捜索だったんだろ」 違う? 優しく笑ってそう言われて、頷いた。確かに昨夜はあの2人が何故か裏々山まで行っちゃって、それを捜しに行っていた。 見つかったのは夜明けだった。 というか先輩、学園中を騒がせたって、いったい何をしたんだ。 「まあそれは前回の話を見てくれれば」 「は?」 「ははは。ほら、眠いんじゃないのか?」 「や、でも…」 「饅頭はとっておくから」 「食満先輩に、悪い…し…」 「その食満先輩も心配してるからさ」 「……すみませ…」 苗字先輩の声がまるで子守唄のようで。 だんだんと下りてくるまぶたを押し返すこともできなくなってきて、 苗字先輩に体を預け、まぶたを閉じた。 あったかい…。 ぬくもり (あれー?富松先輩寝てるー) (静かにな。やっと寝たんだ) (さあ、饅頭食べるぞ) 2009.09.29 |