※長編の主人公 彼女が珍しいことをしていた。 半年近く一緒にいたけど、初めて見るものだったので気になった。 夕食を食べ終えて僕が皿洗いをしている間に彼女はどこからかノートパソコンを引っ張り出していた。 「そんなもの持ってたの」 「あんまし使いませんけどね」 そう言ってる割には手慣れた手つきで電源をつけて画面を眺めている。これマウスじゃないのかよ。僕これ操作できないんだよね、えっと…なんて言うんだっけ? 「透さん、水」 「え?あ!」 流しの水出しっぱなしだ! 慌てて台所に向かい水を止める。 まだ洗い物の途中だった、とため息をついて泡がついた皿を手に取った。 全部洗い終えて再び彼女のところへ向かうと、彼女は一生懸命カーソルを動かせていた。 画面を見るとトランプが並んでいる。 「ゲーム?」 「フリーセルです」 「ああ、パソコンに入ってるやつ。よくやり方分かるね」 「簡単ですよ」 「ええー…」 「どうにかしてカードを全部右上に置けば良いんです」 「説明になってないね」 そんな簡単に行くかよ。 けど、彼女はひょいひょいカーソルを動かしてはクリックを繰り返すとクリアしていた。 確かにカードが右上にある。 「このゲーム、残酷なんですよ」 新しくゲームを始めた彼女が、ぽつりとそう言った? どういうこと?と聞くと、黙り込んで画面に集中しだした。 おい、僕が聞いてやってるのに。 どんどん場のトランプがなくなっていく。 ああもう終わるのかな。 そう思ったらカーソルの動きが止まった。 「どうしたの?」 「これ、ゲームオーバーなんです」 「そうなの?」 「でも、終わらせてくれないんです」 聞けば、何も出来なくなったらゲームオーバーを知らせるウィンドウが出るらしい。 今のこの状況は、一枚のカードを動かすことはできるがクリアするには意味のないものらしい。 「ゲームオーバーさえ告げてくれなくて、それを知らないプレーヤーはただループするだけなんです」 残酷ですよね。 そう言った彼女は、ゲームオーバーを告げてくれないゲームのウィンドウを自分で閉じた。 2009.10.14 |