「ねー、何でそんな膨れてるの?」 明らかに不機嫌、というように苗字はほっぺを膨らませている。 原因は分かるんだけど、はっきりした理由はよく分からなくて、俺も頭を抱えた。 原因は阿部しかないんだけど。 「言ってくれないと分かんないよ?」 ムスッとした顔を上げて、俺の顔をじーっと見た。 聞いてくれる…?、と小さく言ったのに俺は頷いた。 「さっきね、隆也にホワイトデーのお返しを催促したの」 それって催促するものだったっけ。 何とも言えない変な感じが残ってるけど続きを聞くことにした。 「そしたら忘れてたって…!」 私一生懸命作ったのに!! そう言って苗字は机をバンッと叩いた。 注目浴びるからやめてほしかったなぁ……。 「お返しって、そんなに重要かなあ」 「重要なのはお返しというよりもお菓子よ!」 ……ハイ? 瞬きをいつもより多めにして、もう一回苗字を見た。 本人は自分は間違ったことを言っていないという顔で腕組みをしている。 「隆也のヤツ、私がお菓子大好きだってこと知ってるくせに!」 苗字がお菓子大好きなのは俺でも知ってる。 怒っているらしい彼女は少し泣きそうな顔をしていた。 ……ああ、そうだよね。 ウソばっかり。 「お返し、欲しいんでしょ?」 できるだけ優しく言うと、小さくうんと返ってきた。 さっきはああ言っちゃったけど、お返しもらえると嬉しいもんね。 もっと素直になればいいのにって頭を撫でようとしたら誰かが俺のその腕を掴んだ。 「――……阿部」 「コイツ借りんぞ」 俺が答えるよりも先に阿部は苗字の腕を掴んで教室を出ていった。 取り残された俺は、とりあえずお返しの残りのお菓子を食べることにした。 「ちょっと、隆也!」 いったいどこまで行くのだろう。 腕を引っ張られながらの速歩きは普通に歩くよりも体力を消費するもので、私は少し息が上がっていた。 隆也は野球部で体力ついてるし引っ張ってる側だから楽かもしんないけど、私は帰宅部でしかも引っ張られてるんだからね! そろそろ良いだろうと文句を言おうとした途端、頬に何かが触れた。 驚いて硬直していると、隆也は顔を赤くして これでいいだろ、と呟いた。 最終手段は横顔にキス (お菓子も欲しいデス) (……明日な) 2009.03.16 title by にやり |