息が白い。 風が冷たい、しかも冷たい。 つい最近まで食欲の秋を堪能していた俺はどこへ行ったのだろう。 「なー…阿部」 「なに」 俺の少し前を歩く阿部は、こっちを見ずに返事だけする。 あったかそうに巻かれたマフラーから見えるその頬は、赤く染まっていた。阿部も寒いのだろう。 ビューッ また、強い風が吹く。痛い痛い痛い。 耳あてが欲しい。ほら、あまりに寒いと寒いというより痛いって感じるだろ?特に耳が痛いんだよ。 「……何だよ」 「あ、えと…」 急に吹いた風の冷たさで、俺はなにを言うのか忘れてしまった。 中々答えない俺に阿部は舌打ちをする。ごめんなさい。でも本当に忘れました。 さむい、と声を漏らすと阿部はようやく振り向いた。あ、なんか顔見るの10分振り。 「……なに」 「さみぃんだろ、早くしろ」 左手が、差し出されてた。 いきなりなことで俺はよく分からない。 これは、この手を掴んでもいいってことなのだろうか。 また、強い風が吹く。もう駄目だ、寒さに耐えられない。 あったかそうな阿部の手を、握った。 「……何でこんなあったけぇの?」 「カイロ」 そう言って、ポケットからカイロを出して見せた。 ああ、だから阿部は涼しい顔してこのくそ寒い中歩いていられたのか。 「…って、ふざけんな!」 「なにがだよ」 「俺にもよこせ!」 そしてカイロ争奪戦が始まる。 握っていた手は離れてしまったし、阿部は走り出した。現役野球部に勝てる気は全くしないんですけど。 それでも俺は阿部を追いかける。 カイロか、阿部の体温を求めて。 36℃ (君の体温) 2008.11.20 |