自分たち以外、誰もいない道を歩く。 随分と時間は遅くて、チカチカする街灯が目に痛い。 「…手、繋いで良い?」 恐る恐る隣にいる孝介に聞くと、少し沈黙してから頷いてくれた。 良かった、と息を吐いてから手を伸ばした。 「なんで、」 「え?」 不機嫌そうな孝介の声が言う。 いったい何が、"なんで"なのかわからない。 首を傾げていると、孝介はため息をついた。 「こっち、だろ…」 最後の方は小さくなっていった。 声で何となく分かる。孝介は今、顔赤い。 普通に繋いでいた手を少しだけ離して指を絡ませた。 「……孝介は、恋人繋ぎがしたかったの?」 「なっ、い、言うなよ!」 「可愛い」 「っ、るせぇ…」 恥ずかしかったのか、孝介はそっぽ向いてしまった。 指を絡めて手を繋いで、黙ったまま歩く。 俺は沈黙が嫌いじゃないから別にどうってことない。 「名前、」 「え?」 名前を呼ばれて、手が離された。 繋ぎ直すわけでもないらしく、俺の左手は空気に触れた。 何があったのかと思えば、前から自転車が走ってくる。 「あれ?泉に苗字じゃん」 「田島おめー何で向こうから来るんだよ」 「寄り道してた!」 「もう時間遅いから気をつけろよ」 「分かってるー!んじゃあな!」 自転車の主は田島だった。 孝介いわく、田島はしょっちゅう寄り道しているらしい(三橋の家に行って飯食ったり) 田島の姿が見えなくなると、今度は孝介から手を伸ばしてきた。 「ごめんな」 「いや、謝らなくていいよ」 「…ごめん」 まだ、誰かに見られるのが怖かった。 恥ずかしいという気持ちではなくて、見られたくなった。 だって俺たちは男同士なんだから。 手を離されたとき、ショックを受けた。 離した孝介も、泣きそうな顔をしていた。かなわない恋をしていたのは君もわたしも同じなのにね (いつか胸を張って手を繋げる時がくるのだろうか) 2009.08.20 title by にやり |