「あ、もう時間だな」 それは言うならばシンデレラ。 俺たちは一日のうち、たった数分しか会えなかった。 どうしてって、俺も部活があるし苗字さんにもバイトがある。 高校生な俺と、大学生な苗字さん。 部活を9時までやる俺と、9時までバイトをする苗字さん。 ならば会えるのは、部活やバイトが終わってから。 それでも夜遅いし、特に俺は疲れていて長くは会えない。 「それじゃ、今日もお疲れ様。おやすみ」 別れるとき、苗字さんは必ずおでこにキスをしてくれる。 キィ…… ブランコが少し頼りない音を出した。 いつもの時間になったけど、苗字さんは来ない。 携帯を開く、メールも着信も無し。 「……どうしたんだ」 いつもは俺より先にいるのに。 遅れるときは必ず連絡入れるのに。 待つというのはこんなにも切ないものだったのか。 さっきから携帯を開けたり閉めたりを繰り返している。不安になってんだ、俺。 時間を見ると、もういつもなら帰らなきゃならない時間。 もう帰らないと睡眠時間が。風呂入って飯食って… 「泉っ!」 余裕な態度しか見せない苗字さんが息を切らせていた。 ブランコから下りて、苗字さんの方へ行く。 「ご、めんな、待ったろ…?」 「そんなの、別に良いです」 あまり運動していないのか、中々息が整わない。 苗字さんの息が整うまで待つ。喋ろうとする苗字さんを止めて。 「何かあったんスか?」 「バイト長引いちゃって…」 「連絡くらい…」 「携帯忘れちゃって」 ホント、ごめんな? 眉を八の字にして、頭を下げる。 俺はそんなことしてもらいたいんじゃない。 「頭上げてください」 「へ?」 苗字さんが顔を上げると、俺はキスをした。 それは一瞬だけで、唇を離すと停めてあった自転車の方へ行く。 こんな恥ずかしいことしておいて、顔合わせていられるか! 「い、泉っ!」 「おやすみなさい」 「待てって!」 ガシャンッ! 自転車にまたがろうとしていた俺は、苗字さんに引っ張られて自転車と共にこけた。 「いってえっ!」 「ごめんな」 こけたところを正面から抱きしめられる。 「心配してくれたんだよな、」 ありがとう。 「……別に」 「家まで送るよ」 「良いスよ。苗字さんち逆方向じゃん」 「送る」 よいしょ、 倒れた自転車を直して、苗字さんは俺んちの方向へ進んでいく。 仕方ないとため息をついて、その背中を追った。 この恋が恋であるうちに、 好きだと言い続けられるうちに (このままお母さんに挨拶しちゃおっかなー) (や、やめてくださいっ!) 2009.08.11 title by 確かに恋だった 泉の敬語に激しく萌えます´∇`← |