「雨、だな」

「…雨だな」




そんな返事を聞いてから、俺はため息をついた。
連日続く雨にもう嫌気がさしていた。
日本に住んでいる限り死ぬまでコイツとは付き合わなきゃなんないけどな!


「泉、部活は?」
「今日は体育館使えないから休み」

泉と俺は二人で外を眺めていた。
何の変哲も無い、ただ雨が降っているだけの景色。

「苗字、傘は?」
「無い」
「…降るって分かってて何で持ってこねーんだよ」
「俺なりのささやかな反抗だ」

厭味なくらい綺麗に降る雨を見て、俺はまたため息をひとつ。
もうため息をつくのも疲れた。ため息をついたって雨が止むわけじゃない。


「……帰るか」
「ん、そっか」

んーっ、と伸びをして泉は窓から離れた。
俺はいつ帰ろうか、雨が止んでから…だといつ止むかは分からない。
仕方ない、ずぶ濡れになるしかない。
鞄を乱暴に掴んで、教室を出た。
廊下を歩いていても分かる。外は雨だ。

玄関に辿り着くと、雨がさっきより近くに感じられる。
傘を開く泉の隣で、鞄を頭の上にセット。
家まではダッシュで10分。流石に疲れるから途中で諦めるつもりだ。


「おい、何してんだよ」
「え?ダッシュ…」
「傘入ってけ!」
「ええ!ヤロー同士で相合い傘とか気持ちわりぃ…」
「いいから入ってけ。酸性雨にやられてハゲるぞ」
「……オネガイシマス」




やっぱり傘ひとつの中に男2人は狭かった。
なんでかわからないけど、会話が無くなって変に緊張していた。
俺の家より苗字の家の方が近い。それまでの辛抱だ。
……最近、苗字と帰ったりしてなかったから無理矢理誘ったけど、迷惑だったかな。


「…泉、雨止んだ」
「え…?」



そういえば、傘に当たる雨の音がしない。
傘を動かして見上げると、確かに雨は止んでいた。

「…なんか雨止んだの久しぶりだな」
「そーだな!」

雨上がりの食感

(苗字は走り出す。そんな無邪気さが、俺は好きだ)
(泉だって、走りたいくせに)


2009.06.29



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