「前髪伸びたなー……」
「ん?あー、通りで視界がアレだと思った」
「アレって何だよ」


それはそれはだるそうに前髪を触りだした。
明らかに目にかかっているし、痛くないんだろうか。これ。
俺たち野球部と違って散髪に行く時間あるんだから、ちゃっちゃと行ってくればいいのに。

「……切る…かな?」
「いや、切れよ」
「だってめんどくさーい…」


ぐだーって机に伏せて、顔だけあげて俺を見た。
本当に邪魔くさそうな前髪だ。顔が半分見えない。



「自分で切った方が早いかな。ね、泉髪切れる?俺の切ってくれる?」
「できねぇよ。がったがたになってもいいならやってやるけど?」
「がたがたー?それで収まるの?」
「んだよ。何なら前髪全部無くしてやろうか?」
「あーはいはい。泉に頼ろうとした俺が馬鹿でした」



そう言って近くにいた女子に声をかけ、ヘアゴムを借りて前髪を束ねた。

「ピンで留めろよ」
「これでいいだろ。うん、明るくなった」


どこぞの柔道選手みたい。
そう言いたくなったのを抑えるように俺は口元を押さえた。多分、何が言いたいのかは伝わっているだろう。
ヘアゴムをコイツに貸した女子が可愛いと騒ぐ。一緒にいた女子も同様。俺もそう思う。
騒がれて少しムッとした表情を見せたが、それはすぐ微笑みに変わった。その微笑みは俺に向けられていた。


「……何?」
「これで、泉の顔ハッキリ見えた」



伸びた前髪

(……今日散髪行ってこいよ)
(了解しました)







2009.01.10
title by にやり



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