彼女に攻撃するのはとても躊躇いがあった。
倒してくれ、と言っていたもののやはり仲間を攻撃することはできなかった。そんなP4主人公を無視して苗字はマハラギダインを連発してくる。
足立は何も気にしていないのか、淡々と攻撃をし続けている。時折苗字から目を逸らしながら。

「ねえ、戦わないなら帰ってよ。邪魔」
「…帰りません」
「じゃあ早く割り切って」

そう言って足立はまた一発、攻撃する。苗字のペルソナの悲鳴が聞こえた。
割り切ることがこんなに難しいとは思わなかった。今までとは違う、苗字は向こうにいて、苗字のペルソナがダメージを受ける度に苗字もダメージを受けているのだ。それがあるからP4主人公は攻撃に躊躇いを持っていた。


「何をしているの、P4主人公。どうして攻撃しないの?」
「…苗字っ」
「言ったでしょ、私を倒してって」
「でも…」
「ああもう良いよ君、引っ込んでて」


しびれを切らした足立がP4主人公を掴み、後ろへと投げ飛ばした。校舎の方から声が聞こえる。何をしているんだとか足立への罵声だろう。それでも足立は気にせず銃を構える。



「ねえ名前ちゃん。君、後悔してない?」

「してるでしょ?何も君が悪者になることなかったのに」

「ねえ名前ちゃん、泣きそうな顔してるよ」「うるさいっ!!」



苗字が怒鳴る。それに驚きP4主人公も含めて皆が目を見開いた。怒鳴った苗字は足立の言う通り泣きそうな顔をしていて、己の武器を握る手は震えていた。


「私は透さんをテレビに落とした。その事実は今更変えられないの、手遅れなの!
それしか思いつかなかったの!透さんと幸せになるには透さんが犯人だって分かっちゃ駄目だと思って。
ああこんなこと言ったって何も変わらない!
もういいの。私が犯人になれば良いの。だから倒してよ!すっきりさせてよ!」



涙を流しながら叫ぶその姿から目を逸らしたくなった。苗字はこんなにも追い詰められていたのか、とP4主人公は視線を落とす。足立が言っていた、自分が自分じゃなく思えるというのはこういうことだろうか。悪役になりきるというのは。
どうして、どうしてこんな。
悪いけど"前回"よりも"今回"の方が最悪だ。すっきりするわけないじゃないか。




「馬鹿」


足立は構えていた銃を下ろした。そしてゆっくり苗字に近づいていく。


「名前ちゃんが逮捕されたって同じじゃないか」
「こ、来ないで…」
「名前ちゃん」
「とお…るさん…」


苗字の前に足立は辿り着いた。そしてまだ泣いている苗字を抱きしめた。




「もう良いんだよ。名前」
「……透さん…っ」




苗字が足立の背中に腕を回すと、彼女のペルソナは姿を消した。終わったのだ。
それと同時にガラガラと何かが崩れる音がする。いったいなにが崩れているのか。
P4主人公は足立と苗字を見た。彼らの向こうの床が崩れているのを見た。この床が崩れている!



「足立さんっ!」
「僕らのことは良いから、早く皆のところへ」
「良くありません!」
「これからもう一回戦うんでしょ。リーダーがいなくてどうするの」
「え……」


床は足立と苗字のいる近くまで崩れてきている。けれど彼は動こうとはしない。なにを考えている。まさか。




「じゃ、あとはまかせたよ」





崩れた。
2人は落ちていく。後方で悲鳴が聞こえる。ああ、俺は夢を見ているわけではないようだ。
停止しかけている頭を何とか動かして屋上へと戻った。最後に右足を踏み切るとその数秒後、床は全て崩れてしまった。


「P4主人公先輩……名前先輩と足立さんは…」
「……」


生きていると信じるしかなかった。けどこの高さだ。
皆が俯いているときだった、先程まで床があった方から声がしたのは。


「人間は…ことごとくシャドウとなる」



黒い悍ましい何かがそこに浮かんでいた。すぐに分かった、それがアメノサギリだということが。
アメノサギリは淡々と喋りだす、そのいきなりのことに皆驚きながらも答えていく。頭の中は目の前に現れた未知のものでいっぱいになったのだろう。
苗字と足立さんの様子を見に行くのはアメノサギリを倒して霧を晴らしたあとだ。

P4主人公は刀を構えた。





2010.01.08


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