11月9日 「(…今日は、望月が転入してくる日)」 キリッと痛む胸を抑えつけて、やたら進むのが遅い時計を睨みつけた。あの針が決まったところを指せば、Y子こと鳥海先生がドアを開けてアイツを連れてくる。ああ、あと一分。長い、60数えようか。 56、57、58、59… 「はーい、席着きなさーい」 ほら来た。アイツは廊下に居るんだ、先生が呼ぶのを笑いながら待っている。いつも笑っているヤツだったから。 「そうねー、連絡は特に無いわね。皆ちゃんと勉強すんのよ」 「……え?」 鳥海先生はじゃあね、と教室を出て行ってしまった。そのあとを追って廊下へ顔を出してみたが、そこに自分が求めている人物は居なかった。黄色が、見えない。 「おいおい、どうしたよ」 「あ、いや…」 「そうかぁ?」 「……保健室行ってくる、頭痛い」 「お、おう」 間違ってない、今日は"望月が転入してくる日"だ。そして俺が変わった日だ。望月には随分と動揺させられた。たった1ヶ月かそこらでここまで俺の中に踏み込まれるとは思っていなかったな。 保健室の戸を開けると、そこには誰も居なかった。あの教師は仕事してるんだろうか。 勝手にベッドを拝借する。こういうときは寝るに限る。もしかしたらこれは夢かもしれない。 ――…そう、夢だ。 「君は、僕に居て欲しいの?」 「…望月?」 「僕は、僕が居てはいけないと思ったから、こうして現れないでいるんだ。そして君の知らないところで、静かに終わりを迎える」 「なんで」 「君たちに、辛い思いをさせたくないんだ。終わりに怯えさせたくない」 「でもあれは俺たちの選択だ」 「従うとは言ったけど僕は納得していない。本当ならもっと前から止めたいんだ。君がここへ転入するところ、君があの時ムーンライトブリッジに居るところ、桐条が影時間を作るところから。けれどそれは僕が干渉できる範囲を超えている。だから、せめてここからでも」 「それじゃあ、俺の意思はどうなる」 「…また、あの苦痛を味わいたいの?終わりを待つ痛みを」 「違う」 「望月に会いたい」 「……あれ?」 目が覚めるとそこは自分の部屋だった。保健室で寝ていたはずだったのに。いつもの癖で携帯を開く。 10/9 6:30 「……え」 時間が戻ってる。何が起こったんだ…。いくつかの非科学的で有り得ないようなことを体験してはいるが、時間を遡るなんて体験したことはない。 そんな難しいことを朝から考えられるほど頭は動いていないので、もう諦めて学校へ行く支度をする。何かあったらあっただ。"どうでもいい。" 「望月綾時っていいます。この町のこと色々教えてくれると嬉しいな」 どうでもよくなかった。 2010.10.14 2周目設定で、もし綾時が転入して来なかった場合。 SEESは自然に活動を緩めて、気が向いたらタルタロスに登る程度になってしまう。幾月を失って何を目的に戦うのかわからなくなる。影時間の消し方も見当がつかず、年を越して完全に活動を止めてしまう。そして終末。 とか考えたら切なくなった。綾時が現れることで順平が笑うようになったし、目的がはっきりした。綾時はキーパーソン。 |