「やあ、こんばんは」


「もうすぐ満月だね、準備は出来てる?」


「まあ、あんまり心配してないんだけどね」



 いつもと変わらない、何を考えているかわからない表情。彼とこの時間に会うことは嫌いではなかった。むしろ楽しかった。会話だけではなく、たくさんのことをしたい。そう思って彼が来る時期になればたくさんのものを用意したものである。それら全てを彼は喜んでくれたのも、くすぐったい思い出である。


「何をやっているんだ、望月」

 そんな彼と同じ姿をしているけど、今ここに居るのは違う人物だった。実際はどうなんだろう、ファルロスと望月は同一人物なのだろうか。真実がどうであれ、別人として扱うつもりだが。



「……なんでわかるかな」

「明日は、お前が言う最後の日じゃないか」


 それに、ファルロスはもういなくなった。
 そう言えば、望月(姿はファルロス)はごめんねと眉を下げて笑った。ファルロスも望月も、眉を下げて笑うのが特徴だった。その笑顔に僕はいつも心苦しい思いをさせられている。


「君が望んだんだ。僕がいる世界を」
「そんなこと、いつ言った」
「君のことだもん、言わなくてもわかるよ」


 人のベッドに乗って、人に馬乗りになる。誰がそれを許した。ファルロスならば笑って許したが、望月とあらば違う。先程も言ったが、ファルロスと望月は違う。


「頑張ったんだけど、この姿でこの時間に来ることが精一杯だった」

 申し訳なさそうに笑って、俺の頬を触る。小さい手。俺の知ってる望月ではない。ああもう、そんな顔をするな。抱きしめてやれば、望月は小さく声を出して笑い出した。


「なんだ」
「ふふ、この姿のメリットを見つけた」
「メリット?」
「こうやって、君に抱きしめてもらえる」

 嬉しそうに頭を胸の辺りに擦り寄せてくる。子供の姿だからか、可愛い。
 そうか、と答えてやればまた望月は笑う。今の笑顔は好きだ。やがて望月はベッドから下りた。



「…明日だ。明日で全てが終わる」
「……終わらない」
「ふふ…君のそういう言い切るところ、好きだな」

 手を貸して?と首を傾げて言われ、素直に左手を差し出す。すると望月はその手をとった。

「明日、もう一度会えるよ」
「…ファルロスで?」
「ううん、また違った僕で」
「…まだ姿があるのか」
「ふふ、君の無事を祈ってるよ」


 そう言って左手にキス。驚いて望月を見ようと顔を上げると、彼はもういなかった。なんなんだ、アイツはいつも自分勝手だ。






 もうすぐ影時間が明ける。そして、最後の日、1月31日を迎える。








2010.09.29
どうにかして大晦日以降も綾時に会いたくて、するとこうなった。ファルロスの姿な綾時が好き。
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