「…くそ…っ…」 俺、みっともない。 走って用具倉庫のあたりまで来た。ここはあんまり人が来ないのを知っていた。なんでこんなことになってんのか自分でもわからない。俺は苗字から逃げたんだ。 「……っ」 泣かないって決めたのに。俺の意思と反して涙はボロボロ出てくる。やめてくれ。 「市原」 誰かが俺を呼ぶ。誰かって、ちゃんとわかってる。今俺をこんなに苦しめている本人だ。 振り返ってそこにいたのは苗字だった。やっぱり。 眉を下げている、が少し嬉しそうである。そりゃそうか。俺泣いてるもん。 「…んでいるんだよ」 「なんか、市原が泣いてる気がした」 「そんなのも感知すんのかよ…おめーは…」 「市原が泣いてんの見たい」 俺の顔をそのでっかい手で挟み、ぐいっと無理矢理上を向かせられた。俺、今すっげえ情けない顔してる。 ボロボロ涙は止まんねーし、苗字はじっと俺を見てるし。もう意味わかんねえ、なるようになれだ。 「市原、綺麗」 「泣いてぐちゃぐちゃだろ」 「でも綺麗だ」 こいつが言うことの意味はわからない。ただ苗字の声を聞けば聞くほど涙は止まる兆しを見せない。 くそ、くそ…こいつに振り回されている自分が悔しい。 「もしかして、俺市原のこと好きなのかも」 「はあ?」 「あー…そっか。そうなのか」 「お、おい…」 「市原もさ、俺のこと好きだろ」 涙は答える キスして良い?なんて聞かれた。こいつ手出すの早い…! 何も答えずにぎゅっと目を閉じた。 end 2010.07.16 |