「苗字!ちょっと来い!」 「……どっちですか?」 「両方!」 シニアの合宿の時だった。 監督は中々見せない表情で俺たちが寝ている部屋に入ってきて、苗字たちを連れて行った。 それを見ていた俺たちは皆ポカーンとしていて、3人がいなくなると苗字たちが何をしたのか、と話し出した。 「悠一郎?」 「見てくる」 俺を止める声を無視して、俺は3人の後を追った。 きっと監督の部屋だと思う。 監督の部屋が近づくと、案の定監督の声が聞こえた。 足音を小さくして、3人の会話に耳を傾けた。 「何ですか、いきなり大声出して」 「双子の妹、お前何か隠してること無いか?」 「……昨日、監督の夕飯のおかずを皆で分けあったことですか?」 「だから少なかったのか…じゃなくて!」 「双子の妹、バレたんだよ」 「……わお」 「何でそんなことしたんだ」 「…野球したかったんです」 「でもこれはやってはいけないことなんだ」 「……」 苗字が何かしたらしいんだけど、何したんだろう。 監督のおかずのことだったら皆呼ばれるもんな…。 あー、詳しく言ってくんないかなあ。 「だったら、私はどこで野球やれば良いんですか」 「ソフトボールもある。高校に行けば女子野球もあるから……」 「私は今やりたいんです!!」 ソフトボール、女子野球、双子の妹の言う"私"……。 何だ、双子の妹って女だったんだ。 不思議と納得できた。 仕草とか、所々そんな感じのところはあった。いつも双子の兄が一緒にいたからごまかされてきたけど。 話し声が少なくなった。 どうなったの?双子の妹はどうなるの? 「練習だけでも良いからやらせてください」 「……」 「試合に出れなくて良いんです」 「もしそうなったら俺も出ないですけど」 「双子の兄は出ていいんだよ」 「双子の妹が出ないなら俺も出ない」 それを聞いて、俺はドアに手をかけた。 このままだったら2人と野球ができなくなる。 そんなの嫌だ。 「、田島!?」 「え」 監督が中に入ってきた俺を見て驚く。そして出ていくように促した。もちろん俺はそれに従わなかった。 「今まで通りで良いじゃん」 「……聞いてたのか」 「そんな簡単なことじゃないんだ。監督としての責任も問われるし……」 「監督は知らなかったことにすれば良いんだよ」 「監督嘘つくの下手なのに?」 「それに俺たちが大会出れるのなんて、あと1回くらいだよ。ここまで来たら最後までやろうぜ」 そう言い終わると、2人は目を見合わせて頷き監督を見た。 「野球、やらせてください!」 「お願いします!」 そして頭を下げた。 俺も一緒に下げた。 監督は唸って、頭を上げるよう俺たちに言った。 恐る恐る頭を上げると、監督は俺たちに部屋を出て行くよう言った。 「か…監督!」 「俺は何も知らないからな」 ほら、さっさと出て行け。 冷たくそう言う監督を見てから、俺たちは顔を見合わせた。 そして笑って、監督に精一杯の誠意を込めてお礼を言った。 「あー……えっと、」 監督の部屋を後にして、皆がいる部屋に戻ろうとする道。 2人は何か言いたさそうなに口を開いては閉じてを繰り返していた。 何が言いたいのかは、何となく分かる。 「心配しなくても言わないぜ?」 「……サンキュー」 「お礼は言うけど、立ち聞きっちゃあ良くないな」 双子の兄が少し機嫌悪そうにそう言った。 まあ、それは俺も思ってる。 「…わりー……」 「でも、田島のおかげだからな。サンキュ」 微笑みながら、双子の兄はそう言った。 双子の兄が笑ってるところ何かあまり見たことがなかったから、なんか嬉しかった。 「俺のこと名前で良いぜ!悠一郎!」 「ん、悠一郎な」 「これからもよろしく、悠一郎!」 部屋に戻ると、皆にどうして呼ばれたかと聞かれた。 監督のおかずの件だと双子の兄と双子の妹は笑ってごまかした。 それを聞いて皆笑い出した。あー、あれか何て。 このチームメイトだから楽しいんだ。 2人が欠けなくて良かった。 「悠一郎?」 「……今日俺双子の兄と寝る!」 「はあ!?」 「だって双子の兄と双子の妹いつも一緒でずるい!」 「良いじゃん。寝てやれよ」 「雑魚寝状態に一緒もあるか!」 必然じゃなく奇跡じゃなくまして運命でもなくて (もっとずっと素晴らしい何かであると、ぼくは考える) 2009.05.17 title by 夜空にまたがるニルバーナ 1周年企画。 数式と英文の番外編ということで、荒・シー時代を想像して書きました。 本編で監督を困らせた、という表記をしたのでその辺りを。 どうしてバレたのかは……想像にお任せします(…) グダグダとした内容になってしまいましたが、ここまで読んでくれてありがとうございました^^ |