ついにやってきました、三星との練習試合! 試合なんて久しぶり……えと、半年ぶりくらいなのかな? 投球練習を終えて、私は水汲みに来ていた。 マネジは千代ちゃんだけだし、その千代ちゃんは三星の人に捕まってた。ウグイス嬢を頼まれてたみたい。 千代ちゃん頑張ってるし、少しくらい負担軽くしてあげたいというのが私の考え。だからこうして水汲み来てる(これすごい重いんだよね!) まだからっぽで軽いジャグを振り回しながら、今日のことを考える。 球速はどれくらい出るかな。 ストレートの伸びは良いかな。 あ、変化球恐怖症克服したい。 マウンドは、気持ちいいかな。 久しぶりに立つマウンドを楽しみにしながら、ジャグに水を溜めていく。 水の流れる音が涼しくて、気分良くなった。 「……ん?」 ガシャガシャと防具の音が聞こえた。 阿部…は無いか、まだ投球練習してるはずだし。 双子の兄がわざわざここまで来るとは思わない。 じゃあ、三星の人? 音のした方に行くと、三星のユニフォームに防具を付けた人が何かを見下ろして何か喋っていた。 ん、聞こえそう…… 「お前が身内ビイキにアグラかいてエースやって、中学の3年間負け続けたことまだ誰も許してねーよ?」 これは…三橋の話? ということは、この人が見下ろしてんのは三橋? え、何でここにいるの?投球練習してるはずじゃあ……。 ガッ 三星の人は三橋の背中にある壁を蹴りつけた。 そのとき、三橋を見ることができた。 三橋は小さく縮まっていて、びくびく震えてて、泣いてるように見えた。 悪いのは、どっち? 悪いのは、三橋…だと思う。 投手を辞めたくないから、投げるのをやめたくないからっていう自分の考えだけで、そこにいたんだ。 自分のために……。 ……待って? 私もじゃない? 自分のわがままで、マウンドに立てなかった人がいたんじゃなかった? 女のくせに監督悩ませてまで試合にまで出て……。 その場をフラフラと離れて、しばらくしてからしゃがみ込んだ。 そうだ、私もじゃないか。 人事として見られる立場ではないじゃないか。 ガサ、と草を書き分ける音が聞こえた。双子の兄だ。 防具の音が近づいてきて、私の前で止まる。 「どうしよ…私も……私も誰かからマウンド奪ってたんだ。女の私が…私……」 震える声。いきなり何を言っているんだろうって思うだろう。 でも口に出さずにはいられなかった。 誰かに頼らなきゃ、駄目だった。 「大丈夫。双子の妹の力は皆認めてたから。大丈夫だから」 そう言って双子の兄は私の手を握る。あったかい手だった。 私が落ち着くまで、時間の許す限りに……。 |