さっきまであった騒がしさがいつの間にか無くなっていた。枕投げが終わったのだろう。
じゃあ中に戻ろうかと、んー…と伸びをしてから立ち上がる。
そんな私の動作を横目で見てから、泉は何か言いたさそうに口を動かした。



「何?」

「…あのさ」


何故か申し訳なさそうに、でも真剣な顔をして泉は私に聞いた。

「試合出てたのか?…シニアで」



女なのに。
そうは言わなかったけど、そう言い足さそうな顔をしていた。



「うん」


雰囲気を壊すように私は即答する。
あっさりと答えた私に、泉は口を開けたまま。


「野球、やりたかったの。だから、髪型とか双子の兄にできるだけ似せてシニアに男として入った」


わざとらしく笑ってみせた。
結局シニアの合宿のときにバレて、監督の頭を悩ませたことは内緒。


「一卵性じゃないのか?」
「だったらそんな苦労しなかったよ」


私がそう言うと、泉は私の頭から足までゆっくりと見てからニッと妖しく笑った。


「胸無ェし大丈夫だったんじゃね?」


「し、失礼だな!」



事実であるから言い返せないけど、結構気にしてるのに。
幼児体型ですみませんね!
そう言うと泉は笑った。
そこまでむきにならなくてもいいだろって。
……笑うと可愛い…ていうか、カッコイイ?




「でも、そこまでして似せる必要なんてねーんじゃね?」

「…何で?」
「お前は、お前なんだからさ。野球していようが何していようが苗字双子の妹だろ」


私を見上げる泉の目は、優しい。
でも私には野球しかなかった。
野球をやることで、私を私と見てくれていて…。野球をやらない私は『双子の片割れ』
だって私たちはいつも一緒にいたから。
私たちは2人で1つだったから。



「わ、私が黒好きで双子の兄が白好きだったり、好きなタイプとか私たち正反対、なんだ」
「へぇ」
「なのに、皆私たちが同じだって思ってて……」
「うん」
「野球してないと、私は苗字双子の妹として見てもらえてなくて…その……」


「初めてなんだ。そういうこと言ってもらったの。ありがと、嬉しかった」



泉のこと孝介って呼んでいい?
それに頷いたのを確認してから私は孝介に手を振り中へ戻った。ちゃっかりゴミは任せることにして。




「……んだよ、それ」






当たり前だろ、と言った泉の声は聞こえなかった。




to be continued…
2008.10.13
2008.11.23 改編





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