俺のミットに双子の妹の投げた球は入った。 うん。ちゃんとストライクゾーンにも入ってる。 でも受験で鈍ったか?球速が少し落ちた。 「128か…双子の妹ちゃん、変化球は投げられる?」 「あ…はい、一応」 「投げてもらえる?」 「……」 そのやり取りを見て、シニア時代の記憶が蘇る。 双子の妹の最後の試合での大暴投。 変化球を投げた双子の妹の球はストライクゾーンを大きく外れ、俺に直撃。試合は退場させられた。幸い酷い怪我にはならなかったけど。 「分かりました」 「……大丈夫か?」 「危なかったら逃げていいよ」 「当たり前だ」 でも逃げるわけにはいかない。 双子の妹からそんな感情が伝わってくる感じがする。 あれからキャッチボールも投球練習もしたけど、一回も変化球は投げなかった。ここで投げようとしているんだ。俺も、頑張らなきゃ。 ミットにボールが入るいい音がした。 それを確認して、二人同時にため息をついた。 「入ったあ…よかったー…」 「それはこっちが言いたいぜ。防具無いから当たったらどうしようかと…」 「……ごめん」 「もう昔のことだから良いけど」 空気が、重かった。 ようやく投げられた変化球だけど、現役時代に比べたら変化が小さい。 でも、まだこれからだ。 「…まだ、落ちるよね?」 「あ、はい。でも…」 「かなりノーコンですよ。ストライクゾーンにまず入らない」 「…うん。双子の兄くん、双子の妹ちゃん」 「三星との試合、3回まで二人にやってもらうからね」 「はい!」 「西浦来てよかったー」 「あ?」 双子の妹の投球はそこまで。 次は三橋の球を見ると言って、俺達はアイちゃんと戯れている。 「一言で聞くなよ…」 「じゃ、何で?」 「女の私でも野球が出来る」 双子の妹がアイちゃんをギューッと抱きしめると、アイちゃんは双子の妹の頬をなめた。 アイちゃんは人懐っこい犬だから、俺は好きだ。(昔飼ってた犬は俺にだけ懐かなかった) 「イチかバチかだったけど、運が良かったみたい」 「確かに…それはあるな」 「桐青だったらどうなってたかなー」 ピシッ 忘れてたのに。 あの屈辱的なことはすっかり忘れてたのに。 「その名を言うな」 「へ?」 「思い出せるな、あの人を」 「あは…は……分かった」 ああもう、思い出しただけで鳥肌が立つ。 本当、桐青に行かなくてよかった! 「双子の兄くん、双子の妹ちゃん戻るよー!」 「はい!」 「行くよ、アイちゃん」 俺達は三橋と阿部を残して合宿所へと戻った。 帰ったら料理か……双子の妹には気をつけないと。 2008.08.15 2008.11.19 改編 |