寝るには早いがもう夜だ。作兵衛にはゆっくり休んでもらうことにした。 そうだよこいつ頑張りすぎなんだよ。 「名前」 「孫兵」 布団に作兵衛を寝かせて、その横で本を読んでいたら孫兵がひょこっと顔を襖の間から覗かせた。 おいで、と言ったら孫兵は俺の隣にやってきて腰を下ろした。 「作兵衛、倒れただろう」 「…分かってたのか」 「何となく。捜索から戻ってきたときの目が危なかったから」 「へえ」 「声かけようかと思ったんだけど、数馬と藤内に連れてかれちゃって」 孫兵も、孫兵の懐から頭を出しているジュンコも作兵衛を心配そうに見ていた。 「作兵衛、愛されてんな」 「何言ってんの。名前も愛してるでしょ」 孫兵はそう言って優しく笑って俺を見た。一瞬、恋愛云々の"愛してる"かと思ったが、孫兵のジュンコやきみこに対する"愛してる"だと分かった。 だって、孫兵が作兵衛を見る目がそれと似ている。 「そりゃあな」 「うん。じゃあ僕はこれで」 「もう?」 「作兵衛を、よろしくね」 そういえば何で俺なんだろう。 本を読むのにも飽きて、そんなことを考え始めた。だって、数馬が作兵衛係になって俺と藤内で方向音痴どもの捜索とかしてもいいわけだ。例えばだけど。うーん…。 「…名前…名前」 「ん?左門。三之助も」 「入っていいか?」 「おう」 小さな声で左門は、ありがとうと言って中に入ってきた。続いて三之助も入ってくる。 なんか左門が静かなの不思議だ。 「作兵衛、大丈夫か?」 「寝てるだけだから」 「さくべー…ごめんな」 何がごめん、なのだろう。ごめんと言った左門は眉を下げて作兵衛を見ている。疑問に思っている俺に気づいたのか三之助が俺に言った。 「俺たちが言い出したんだ。作兵衛係つくろうって」 「…は組じゃなくて?」 「うん。なんでかわかんないけど、何やったって作兵衛困らせちまうから」 そりゃ、お前は無自覚ですから。そう言いたくなったがなんとか飲み込んだ。 三之助も寝ている作兵衛を見る。やっぱり、あの目だ。 「作兵衛は、ほっといたら頑張っちゃうから、だから名前に頼んだんだ」 「なんで俺?」 「僕たちが信用できるから」 二人は俺の方を向いた。向いたと思ったら頭を下げた。 え、なんでいきなり。 「作兵衛を、頼む」 「まかせろ」 ああ、本当に作兵衛は愛されている。 2010.03.30 弐 |