スパーン


部屋の障子が勢い良く開かれた。
俺は饅頭を今、まさに食さんとしていたところだった。
逆光で若干見えにくいが、開けたのは数馬だ。見えにくいが笑顔な気もする。


「数馬?」
「こんばんは、名前」
「え、こんば…うわっ!」


『何か』を投げ付けられた。いや、『何か』なんて言ってはいけない。これは作兵衛だ!数馬のヤツなんて力だ…!
作兵衛を何とか受け止めて、数馬を見上げた。おいおい、魚を盗んだ猫を追い詰めたような圧迫感だぞ。



「名前、今日から君は一週間『作兵衛係』だから」

「は?」


わけがわからん。
未だ腕の中にいた作兵衛を見ると、本人も理解していないようだった。
数馬だけが笑顔で俺たちを見下ろしている。


「左門とか三之助じゃなくて、作兵衛?」
「うん。名前が抱えてる作兵衛だよ」
「!…作兵衛にそんなの必要か?」

そうだ、方向音痴どもならまだ分かる。というか作兵衛がその係になっていると暗黙の了解がある。毎回ご愁傷様と思う。
つまり作兵衛はしっかりしているのだ。




「必要あるんだよ。つべこべ言わずに引き受けて」



何と言う暴君。
よく見ると数馬の後ろ、障子の間から藤内が覗いているではないか。藤内もグルか。
俺と目が合ったからか、藤内も姿を現した。そして数馬に並んで言う。


「迷子捜索は僕らがするから、作兵衛に行かせないようにしてね」
「それと名前は一人部屋だったよね?今日から一週間、作兵衛をこの部屋に泊めてやってね」


ちょっと、ちょっと待った。お前らの意図が全くわからない。
それじゃあ、と二人は去ってしまった。押し付けられた…!

どうしたものか、と作兵衛を見た。作兵衛本人もまだ混乱しているらしい。まああれで理解できたら尊敬する。


「…作兵衛」
「、んだよあいつら。左門や三之助じゃねえんだから大丈夫だってのに」
「だ、だよな」
「一発言ってく…」

「作兵衛!!」


バタン、と倒れた。慌てて作兵衛を抱え起こすと、寝ていた。もしかしてこいつ、寝てない?
作兵衛は授業受けて、実習なんかあった日は実習と迷子捜索をして
それから委員会やって、たまに夜通し迷子捜索やって…。



「…なんか、分かったかも」




俺、作兵衛係やるよ。


2010.03.28
一日目
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