「本当、はらはらしたよ」
「だったら止めに来いよ」
「それじゃあ名前がいる意味が無いでしょ?」


翌日、綺麗に晴れて良い昼寝日和。言い変えて、迷子日和。左門を捜す田村先輩の声が遠くに聞こえる。もちろん知らない振り。頼られたら手伝う。
俺と数馬はのんびりとお茶を飲んでいた。昨日あったことだって結局日常茶飯事である。

「で、作兵衛係も今日で終わりだけど、どうだった?」

ふふ、と数馬は笑って煎餅に手を伸ばす。まるで昨日何があったか全て知っているかのようだった。正直、昨日は冷静ではなかったので誰かに覗かれてるかすらわからない状態だった。多分、数馬は覗いていたのだろう。相変わらず悪趣味。

「んー…俺には向いてないんじゃないかと思った」
「なんで?」
「たった一週間なのに二回も喧嘩した」

バリ、と何とも空気の読まない音がする。数馬が煎餅を砕く音だ。もうちょっと抑えてくれないものだろうか。

「二回も喧嘩できたんだ」
「ん?」
「すごいなあ、僕の予想だったら二人は喧嘩しなかったのに」
「予想?」
「そっか、喧嘩できる仲だったんだ」

数馬の言ってることがよくわからない。俺も煎餅を割る。半分になった煎餅の一つを食べようとしたら後ろから手が伸びて、その半分を取った。え、誰。


「孫兵」
「作兵衛、依存してたでしょ?」
「お茶いる?」
「いる」

なんだなんだ。数馬からお茶を受け取った孫兵は俺の隣に座る。お前、委員会はどうした。

「ね、名前」
「…まあ。依存の意味は分かった…気がする」
「うん。迷子捜索してないと落ち着かないんだよね」
「そんな言い方…」
「大体合ってるでしょ」

ははは、と数馬は笑う。孫兵も口角を上げていた。なんか、俺と作兵衛、みんなの見世物みたい。


「やっぱり、名前にして正解だったね」
「うん」
「そうか?」

そう言ってくれるんなら、まあ、良いけど。
遠くで田村先輩がまだ叫んでいる。左門が見つからないのか。苦笑していると向こうから作兵衛が来た。


「作兵衛、お疲れ」
「委員会?」
「おう」
「まあ座れよ」

そう言えば、作兵衛は俺たち三人をじっと見る。どうした?


「孫兵、退け」

「…はいはい」

孫兵が呆れながら、俺との間を空けるとそこに作兵衛が座った。なんでわざわざ。

「作兵衛、子供みたい」
「うるせぇっ!」


今までにない勢いで煎餅を食べる作兵衛。歯、丈夫だな。
作兵衛が来たところで反省会は終わりだろうか。数馬は変わらずニコニコしてるし、孫兵はそっぽ向いてるし。
まあ良いか、とお茶を飲み干した。


「名前、まだ作兵衛係は延長?」
「延長!?」
「名前が決めるの。どうする?」



そう言われて俺と作兵衛は顔を見合わせる。作兵衛係、か。
少し作兵衛が苦い顔をする。孫兵は変わらずどこかを見ている。数馬はニコニコ笑っている。


「んなの、必要無いだろ」



そうだよね。
数馬は笑ってお茶をこぼした。
孫兵は表情を変えずに手ぬぐいを差し出した。
作兵衛は慌ててその手ぬぐいでこぼれたお茶を拭いた。
俺はその様子をぼーっと見ていた。

もう作兵衛には作兵衛係なんてもの必要無いんだ。大丈夫。




「富松!神崎を捜すの手伝ってくれ!」

「…仕方ないですね、名前手伝ってくれ」

「ああ」





一週間の作兵衛係、終了

2010.05.19




完結です。
やりたい放題な設定、すべて私得です。
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