どうして名前はそんな冷静でいられるんだ。三之助がいなくなったのは昨日のことだった。あれから先生も捜索に加わって今もそれは続いていた。まだ見つかったとの連絡は入っていない。

「作兵衛、行くな」
「…厠」
「さっき行ったのにか」
「…分かったよ」

さっきから名前はどっしりと座って動かない。何故かその背中がとても大きく見える。
対称的に俺はそわそわして黙っていられない。
今にも飛び出して三之助を捜しに行きたいのに、名前は止める。意味がわからない。


「…作」
「捜しに行く」
「駄目だ」
「なんでっ!」


俺は名前の胸倉を掴んでそのまま押し倒す馬乗りになった。一瞬、名前は驚いて目を見開いたけどすぐにその表情は戻った。くそ、嫌なくらい冷静じゃないか。


「名前は三之助が野垂れ死んでも良いのかよ」
「そんなこと言ってない」
「だったら行かせろよ!俺が行かないと…」
「なんで作兵衛が行かなきゃなんないの」



「誰が作兵衛に行けって言ったの」

「言われなきゃ行っちゃ駄目なのかよ」

「そうは言ってない」

「じゃあ行かせろよ」

「作兵衛、泣かないで」



そう言ってぎゅっと名前は俺を抱きしめる。泣いてる?この場面で?そんなわけないじゃないか。でも確かに頬にはあったかいものが流れている。
よしよし、って子供をあやすように名前は俺の頭を撫でる。やめろって、涙止まんねえ。


「行かせてよ、不安で仕方ないんだ」
「なんで不安なの?」
「わ、かんない」
「…ね、作兵衛がアイツらのこと大切なのわかるけどさ」


グイッと俺の頭はを掴まれて名前の首元へと埋められた。わけわかんないくらいに目元は熱くて、目を開けるのすら大変になってきた。



「アイツらよりも、俺には作兵衛が大切なの」



恥ずかしい。こんなことをさらっと言う名前が憎くて仕方ない。嬉しいと思う自分がいて悔しい。
離せ、と言えばすんなり離してくれた。名前は何とも言えない表情をしていた。強いて言うなら情けない顔。
無理矢理、口元だけでしか笑えていないのに上手に笑えているつもりなのだろうか。そんな口元に口づける。自分の行動に内心驚きながらも、もう一度口づける。名前もそれに応えてくれる。




「作兵衛、ほら」


名前が閉じられている障子を指差す。目尻に溜まった涙を拭ってから障子を見て、もう一度名前を見たら、開けてみ?と今度は自然な笑顔で言われた。
恐る恐る障子を開けてみる。




「あ、作兵衛」
「三之助…!」





作兵衛が捜さなくても何とかなるんだよって、名前が言った。三之助は何のこと?と首を傾げた。
俺は、頷いた。



2010.05.18
六日目
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