大人の気配が無くなった。一度深く眠り、目が覚めて思ったことだ。 いつも俺は名前さんよりも早く起きる。だから必ず名前さんの姿を確認できるんだけど、今朝は無かった。厠にでも行ってるのかな、と布団から出て見に行ってみた。いない。 そんなに部屋が多いわけでもないので捜すのは簡単だった。いない。 「名前さん…?」 出て行ってしまったのだろうか。いやこんな早くに出る必要があるのだろうか。もしかして、俺といるのが面倒になって出て行ったのだろうか。 もしそうだったらどうしよう。とりあえず戻ってきてもらって、俺が出て行かなければ。だってここは名前さんの家だし。 「兵助」 ああでもどうやって戻ってきてもらおうか、俺はここの地理を全く知らないし連絡手段なんてあるわけもない。 ぐいぐいと何かが袖を引っ張る。ちょっと待ってくれ、今考え事してるんだ。 「へーすけ、俺だ。帰ってこい」 「だから今考え事してるんだ…って……」 「帰ってきたか」 「…誰?」 そこには見知らぬ少年がいた。この少年がさっきから袖を引っ張っていたらしい。 「何を言っているんだ、俺だ」 「…いや、わからない」 「……名前だ」 「………ええっ!?」 目の前にいる少年が名前さん、そんなことが信じられるだろうか。しかし言われて見れば少年は名前さんそっくりなのだ。小さくして、ちょっと童顔にして…。 「……本当に?」 「嘘をついたって何の得にもならない」 「はあ…」 普通であれば信じられるはずがなかった。常識的に考えて生き物が退化するわけがないのだ。けど不思議と俺は納得をしていた。 「とりあえず、飯」 「はい」 俺が料理できる立場で良かったと思いながら立ち上がる。名前さん(仮)はうんうん唸りながら自分の手の平を見つめていた。本人もいまだ信じられないのだろう。 しかし、子供というのは可愛い。名前さんはかっこよかったから、それとはまた違ったものを感じる。 「名前さん、可愛いですね」 「嬉しくねーよ」 → |