くらくらする自分の頭を見て見ぬふりをして実習へ行くために襖を開けた。もちろんそこから出れば縁側へと続く。それ以外にあるわけない。

そう、あるわけないんだ。だから俺は視界に捕らえたものを信じられなかった。
白で構成された場所。壁も天井も。圧迫感を酷く感じる場所だった。何か変だと思い、帰ろうと襖を開けたら押し入れだった。あれ、俺ここから来たんだよな。

混乱していたら、物音がした。侵入者だろうか。それとも俺を幻術か何かにかけた人物だろうか。苦無を握って人物を仕留めようと試みた。


「誰だ」


入ってきた人物は俺よりがたいの良い男だった。苦無を向けても動揺したようには感じられない。
「ここの家主だが」
家、ここは家なのか。そしてこんな若そうな男が家主とは。苦無を下ろせと言われ、相手が丸腰なのを確認して下ろした。
そしてとりあえず話そう、と言われて言われるままに案内されて座った。冷たいお茶が出てきた。


「自己紹介からしようか。俺は苗字名前、19才」
「…久々知兵助、14才」
「中学生!?嘘だろ!」
「14才」
「…はい」


ちゅうがくせい、とは一体何なのだろう。とりあえず14才だということを疑われたことは分かった。
続けて服のことを聞かれた。忍装束を知らないのだろうか。でも知らない人もいるか、忍者なんてそうそう見るもんでもないし。俺にとっては苗字さんの服の方が不思議なのだが。


「…聞いてもいいですか?」
「おう、どうぞ」

「ここ、どこですか?」


…沈黙が少し。苗字さんは少し驚いたようだった。
思えば自己紹介などの前に聞くべきだったのだ。どうも混乱しているらしい。
苗字さんは少し考えたあと、わあぷ、やら、とりっぷ、やらと意味のわからない単語を並べる。



「くくちへいすけくん、君は忍者のような服を着ているが」
「!」


知っているではないか、どうしてさっきは知らないふりなどを。苗字さんは俺をこのよくわからないところへ連れてきた人なのではないだろうか。
俺は苗字さんを押し倒し、馬乗りになって首に苦無を当てた。もしこの人が敵であるなら、この場で首を切り裂く。


「くくちへいすけくん」
「苗字さん、貴方は何を知ってるんですか」
「何も知らないよ。ときに、君は何時代に住んでいるんだい」
「…室町でしょう…?」


何を言うんだ。
苗字さんは諦めたような目をして、俺に言う。
ここは平成という時代なんだ、と。
へいせいってなんだ、そんな時代知らない。聞くと未来らしい。
もう考えることもままならなくなってきた、苦無を苗字さんの首に当てたまま状況を整理しようと頭を動かす。駄目、動かない。


「まあまあ、来れたんだから帰れるさ。それまでここにいな」
「…いいんですか?」
「いいよ」


苗字さんの言葉で俺は安心した。そのことに苗字さんは気づいただろうか。


表情に出さない男
2010.03.20

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