バイト疲れた。さっさと風呂入って飯食って寝てしまおう。

そう思いながら眠い目をこすりながら家の鍵を開けた。悲しや一人暮らし、電気が消えてるってだけで何だか寂しい。
ドアを開けて中に入って居間へ向かう。そこに荷物を置いて着替えるために寝室へ。ん、物音がしたような気がした。



「誰だ」


瞬間だった。電気の点いていない寝室のどこかから何かが出てきて、何かを俺の首元へと当てた。どちらかと言えばこちらが聞きたいのだが。

「ここの家主だが」
「…家?」
「とりあえずその物騒なものを下ろそうか、俺は丸腰」

しばらく相手は考えたように沈黙して、やがてそれを下ろした。まあとりあえず話そうか、と居間へ案内してお茶を煎れる。麦茶だけどね。


「自己紹介からしようか。俺は苗字名前、19才」
「…久々知兵助、14才」
「中学生!?嘘だろ!」
「14才」
「…はい」


最近の中学生ってこんな大人びてんの?そんな疑問は、くくちへいすけの格好によってどうでもよくなった。
やっぱり中学生じゃないんじゃないか。そんな格好しない。

「その格好は?」
「?」

くくちへいすけにとっては普通らしい。流石の俺もちょっとよくわかんなくなってきた。スルーしてどうにかなる問題じゃないものを持っているのではないか、この少年。


「…聞いてもいいですか?」
「おう、どうぞ」

「ここ、どこですか?」



なんと!この少年迷子らしい。素晴らしい迷子じゃないか。
迷子になったいきさつを聞いてみると、自分の部屋の襖を開けたら俺の寝室に繋がったらしい。しかも帰れなくなったとか。

「ワープでもしたのかね」
「わあぷ?」
「トリップ?なんか次元越えたんじゃないか」
「とり…あの言ってる意味がよく」
「くくちへいすけくん、君は忍者のような服を着ているが」
「!」


どたん、と押し倒された。そしてマウントポジションをとられて再び危ないものが首元へ。ちょっと、尖ってる部分が当たりそう。

「くくちへいすけくん」
「苗字さん、貴方は何を知ってるんですか」
「何も知らないよ。ときに、君は何時代に住んでいるんだい」
「…室町でしょう…?」


タイムトリップ、だそうだ。少年は室町時代から来たらしい。
いつ首元を切られるかわからない危険な状態のまま、説明をする。ここは平成だということ、君は時代を越えてきたんだということ。
くくちへいすけくんは黙ってしまった。




「まあまあ、来れたんだから帰れるさ。それまでここにいな」
「…いいんですか?」
「いいよ」



楽観的な男


2010.03.18

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