「名前さん、暇です」 「奇遇だな、俺もだ」 特に何もない土曜日だ。本当に何も無くて、やることが見つからない。 俺と兵助は二人でごろごろとしていた。 「お茶、飲みますか?」 「んー…いや、いいや」 「そうですか」 なんとなく兵助が居心地悪そうにしているのがわかる。これはどうにかしてやることを見つけなければ。 「兵助」 「はい」 「散歩行こうか」 俺がそう言うと兵助は一度動きを止めて俺を見る。こうするときは兵助が考えるとき。 「はい」 ほんの少しして兵助ははにかんで答えた。財布と携帯をポケットに入れて、兵助に上着を渡して外へ出た。 「名前さんは、よく散歩するんですか」 「しないなあ。なんだかんだ忙しいから」 「そうなんですか?結構暇そうにしてますけど」 くすくすと兵助は笑う。図星をつかれて俺はなんとも言い返せなくなった。正直に言えば、暇になったらゲームをしたりしてるのである。 「兵助は暇になったら何してんの?」 「…勉強したり、鍛練したり」 「おお、真面目だな」 「あと町に出て買い物」 「へえ、どんなもの買うんだ?」 「豆腐です」 また豆腐か。 ははは、と笑いながらそこらに生えていた猫じゃらしを一つ抜いた。それを軽く振りながら歩く。 「未来は、窮屈ですね」 「ん」 「山が見えないし、何より空が」 「うん。夜は星なんて見えやしない」 「…賑やかですけど、寂しいですね」 確かにその通りだ、と肯定することしかできなかった。でも兵助の寂しそうな横顔を見ると肯定することもできなかった。何と声をかけて良いのかわからなかった。 にゃあ 何かが存在を主張してきた。何かって正体は分かっているんだけども。 キョロキョロと見回して、塀の上に見つけた。 「猫だ」 「触っても大丈夫ですか」 「大丈夫だろ」 恐る恐る兵助が手を伸ばす。猫はその手を不思議そうに見ていた。あと少しというところで兵助の手が止まる。止まった手に猫が擦り寄ってきた。 「う、わ」 「懐いたか?」 「ふわふわ、してる」 質問に答えていない。ただ兵助は感動しているばかり。兵助が楽しそうだから全然構わないのだが。 「こんな道端に猫がいるなんて、さすが未来ですね」 「そういうもんか?」 「そういうもんです。可愛い」 しばらく猫から離れない兵助に、今度は俺が居心地悪くなってしまった。さあ、何て言って猫から離そうか。 ムッとした男 2010.05.27 提供いただきました、のほほんと…? 猫が絡めばのほほんとするかな、と思ったのですが挫折。 提供ありがとうございました! |