「苗字!」



もう駄目我慢できない!
留三郎に止められながらも僕は苗字の部屋に来た。もちろん苗字しかいない。圭助は長次のところにいるもの。仲直りしたんだって。


「…なんだ?」
「ちょっと話があります!」

突然僕が入ってきたことに苗字はきょとんとしていた。そんな苗字のことも気にせず僕は腰を下ろした。

「話?」
「圭助とのことだよ」


ヒュッと息を吸う音がした。
逃げたさそうにしていたけど視線でそれを止めた。

二人のことに僕は随分と腹を立てていた。
圭助が苗字のこと忘れているのもそう。
苗字はずっと圭助と一緒にいてくれたのにそれはひどいよ。
でも苗字だって。どうして自分のことを無下にしてしまうんだろう。少しくらい自分のことも考えていいのに。


「僕は、ちゃんと圭助に言ったほうが良いと思う」
「な、にを」
「苗字のこと忘れないでって」


なんで僕が苗字にこの話をしているかって、圭助はあまり僕の話を聞いてくれないから。他人を好きになったのが初めてな圭助は長次と自分のことで頭がいっぱいいっぱいみたい。



「、いい。言わなくていい」
「っなんで!」


皆心配しているんだよ、なのにまだそうやって。
苗字は俯いたままぽつりぽつりと話し出した。



「私は世話好きだったらしい。入学してからずっと圭助の世話ばかりしてきた。その世話の必要が無くなったから、どうしていいかわからないだけだ。時期に慣れる」
「そういう問題じゃ…っ」

「善法寺先輩」


いつの間にか綾部が僕の前にいた。興奮してたとはいえ気づかなかったなんて未熟な証拠だ。
綾部は苗字を抱えるように抱きしめて僕を睨む。


「お帰りください」










「私は、どうしたらいいんだろうな」
「言えばいいんじゃないでしょうか、善法寺先輩の言う通り」
「…イヤだ。圭助の幸せを壊すことはできない」
「じゃあ、認めてしまえばいいんじゃないですか」

「あの人の幸せを祝福してしまえばいいんです。諦めもつきます」


2010.03.11
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