狭い廊下を歩いていた。まさかそんな、嘘だろう?私はどれだけ不運なんだ。いや違う、ヤツのことが嫌いなわけじゃない。人間としてはむしろ好きな分類になる。

向こうから中在家が歩いてくる。不幸にもここは一本道で、どこかへ曲がって接触を避けることはできないようだ。
無意識に私の歩く早さが遅くなる。足が中々前に出ないのだ。どうせなら早く通り過ぎてしまえばいいのに。

ああ、すぐそこに。



「…」
「…」
「……おはよう…」
「、おはよう」


呼吸をする音が、ヒューヒューという音が私の耳につく。駄目だ、逃げたい。
重い足をどうにか前に出した。それを見たからか中在家も歩み出した。

歩いて、ようやく曲がり角。急いでそこを曲がって私はしゃがみ込んだ。

中在家は嫌いではない。むしろ好きである。
けれど、けれど圭助と付き合っている中在家は嫌いだ。どうして私から圭助を奪ってしまったんだ。圭助に私しかいなかったように、私にも圭助しかいなかったのに。

もう泣くのは嫌だった。
割り切れない自分を見るのが嫌だからだ。けれど泣いてしまう。




「苗字先輩」
「……お前は、よく気づくね」
「先輩のことですから」

神出鬼没とはこのことだ。綾部はいつの間にか私の隣にいた。泥だらけだから蛸壷を掘っていたのだろう。



「先輩はどうしたいんですか」
「何が」
「あの人が中在家先輩と付き合う前に戻りたいんですか」


私は、圭助が中在家と付き合う前に戻りたいのだろうか。
そりゃ戻りたい。圭助が中在家に出会わなければ私はこんなに辛い思いをせずにすんだのだから。
でも、中在家に出会わなければ圭助は今のような幸せを知らないままだ。

私は、私は…












「苗字先輩は優しすぎます」
「私が?」
「もっと欲を出していいのに」


2010.03.10
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