しばらく留守にしていた。理由は学園長のおつかいだ。 そんな物騒なものじゃなくて、学園長の友人の護衛をしてもらいたいとのこと。いつもより楽だったし団子おごってもらえるし、頼まれて良かったと思う。 「おかえりなさい」 学園に戻った私を迎えてくれたのは綾部だった。いつもは小松田さんだけだったから少し新鮮。 「ただいま」 「お土産ありますか」 「いきなりだな。ほら、団子」 「僕、団子好きです」 「それは良かった」 自分の食べた分はおごってもらって、土産の分は自分で払った。 団子は圭助の好物だからきっと喜んで食べるだろうって思ったんだ。分けて包んでもらったから綾部にもあげる。無表情ではあるが喜んでいるのがわかる。 「そちらは」 「圭助の分だ」 「…今は、止したほうが良いと思います」 「どうして」 目を伏せて理由を言わない綾部と別れて自室へ向かう。 何か話し声が聞こえる。私たちの部屋がこんな騒がしいことがあっただろうか。 少し不思議に思いながら私は障子を開けた。 「おお、名前おかえり!」 迎えてくれたのは笑顔の圭助だった。笑顔とはこれまた珍しい。 部屋には同級生である善法寺と食満をはじめ、七松と中在家、潮江と立花までいた。 いつの間に圭助はここまでの人間と仲良くなったんだ。 「学園長のおつかいだったそうだな」 「ああ」 「お疲れ様」 「ありがとう」 善法寺と食満がずれて私が座る場所を作ってくれたので、そこに腰を下ろす。 円の中心には団子があった。 「長次が買ってきてくれたんだ。名前も食べるといい」 圭助が笑顔で私に言う。 思わず私は持っていた団子を背中に隠した。圭助にとってはきっと、私なんかが買った団子よりも中在家が買ってきた団子の方が遥かに美味しいだろう。 背中に隠したものが何か気づいたのか、善法寺が何か言おうとしたのを私は目で止める。 良いんだ、言わなくていい。 圭助は幸せなんだ。 「美味そうだな。中在家、私ももらっていいか?」 「……ああ」 「ありがとう。いただきます」 美 味 い 「…苗字」 「良いんだ。何も気にするな」 もう圭助は私のことなど気にしないだろう。 中在家が買ってきたという団子は皮肉にも私が買ってきたものと一緒だった。そりゃ美味いに決まっている。 ああ、この団子どうしよう。 2010.03.03 |