圭助に何があったのかなんて私にはわからない。 ただ、部屋に戻っても圭助がいないという寂しさを感じるだけだった。 中在家と付き合うようになって、圭助は色んなヤツと関わるようになった。同じ組であった食満と善法寺に挨拶を交わしていた。先日は七松に体当たりをされていた。 おそらく私の知らないところで他の人物とも話しているのだろう。 圭助がそうしている間に私はこの感情を押し殺し、どろどろしたものを心の臓あたりに抱え増やしているのである。ああ、本当にどろどろしている。若干熱を持っているから面倒くさい。 「苗字先輩」 「綾部じゃないか。珍しい」 「先輩が一人な方が珍しいです」 許してもいないのに綾部は部屋に上がり込み、私の隣に腰を下ろす。嫌ではないから咎めはしない。 何も言わなかったら綾部は頭を私の膝へ乗せてくる。嫌ではないから咎めはしない。 ふわふわの髪をゆっくり撫でると綾部は気持ちよさそうに目を閉じた。 「僕は何も言いませんけど、何か言いたかったら言ってください」 そう言われて私は綾部を撫でる手を止めた。なるほど、私はわかりやすいのか。 綾部は目を閉じたまま呼吸をしている。綾部は何も言わないと言った。それを信じていいものか、いや、可愛い後輩を疑っているわけではない。ただ、話してしまうことで私と綾部の関係が変わってしまうことが怖いんだ。 「…ありがとう」 「先輩?」 「私は大丈夫だ。そう言ってくれるだけで嬉しい」 綾部は何か納得しない顔をして私を見ていた。何も言わせまいと私は綾部を撫でつづける。やがて諦めたらしく綾部は目を閉じて私にされるがままになった。 「別にいいですけどね」 「綾部は優しいな」 「優しくないですよ、ちっとも」 良いんだよ。 圭助は幸せみたいだし、周りに何の迷惑もかけていないようだしね。 何の問題も無いじゃないか。 私 は 孤 独 で い い か ら 不思議とね、綾部の頭を撫でていると心の蔵あたりにある、熱を帯びたどろどろしたものが消えていくんだ。 綾部は幻術でも使えるのかい? 2010.03.01 |