「苗字先輩、ちょこください」
「ちょこ?」
苗字先輩は首を傾げてこちらを見る。どうやらちょこれいとを知らないらしい。
まあそんなのは想定内のこと。
僕は次の手段へと出る。
「ばれんたいんって知ってますか?」
「知らないなあ」
「好きな人に贈り物をするっていう行事です」
「へえ」
綾部はよく知ってるな、なんて優しい声で言って先輩は僕の頭を撫でる。先輩の手は好き。
「それで、僕は苗字先輩から贈り物をもらいたいんですよ」
「綾部がくれるんじゃないの?」
「先輩からもらいたいんですよ」
次、素直におねだり。
苗字先輩は鈍いお方だから遠回しに言ったって伝わりゃしない。
なんだそういうことかって苗字先輩は笑う。
笑うってことは何も無いんだ。
「けれど困った。何も無い」
ほら。
そんなのも最初から想定内。
そういう答えが返ってきたらを考えてある。むしろ、そっちしか考えてない。
「じゃあ先輩をください」
先輩は目を丸くする。その顔好きだなあ。
僕は先輩に近寄る。先輩はただその僕を見つめる。
ああ、あまりにも無防備ですよ。
先輩の頬に触れて、唇を指でなぞって自分の唇で触れる。
一度離してもう一度。
先輩は何も動かない…と思ったら、先輩の手が僕の腰を掴む。ちょっとこれは想定外。
驚いて顔を離して先輩を見た。
「どうした?」
「え…」
「ほら、俺をあげる。十分に堪能してよ」
そう言って苗字先輩は僕の唇に触れる。頬を優しく抑えられていて離すことはできなさそうだ。だんだんと深くなるソレに堪えるために僕は先輩の首に両腕を回す。
ああもう、想定外。