今日は暑い日だな。
寝ぼけた目をこすりながらそう思った。

昨日は随分と名前がご機嫌だった。
話を聞けば、3年生と飯が食えてしかも善法寺先輩に茶わん蒸しをもらったらしい。好物だもんな。
気持ち悪いくらいの笑顔でそれを話して眠りについたのを覚えている。


「……ん?」


人がいる気配はする。だけど姿が見えない。
いつも俺が先に起きて、それから名前が起きる。だから名前はいるはずなんだ。でも姿が見えないって…?

名前の布団に小さな山を見つけた。
何かいるのか…?
恐る恐る布団をめくってみた。

「えぇぇええっ!?」







「兵助うるさいよー…って、どうしたの」
「雷蔵、ああれれれ…」


兵助の大声に駆け付けてみれば、兵助は腰を抜かしたように座って何かを指差している。
そちらを見てみると布団がもぞもぞ動いている。
布団の動きが止まったと思うと、何かが顔を出した。



「……へ?」
「んー…るさい…」


顔を出したのは小さな子供だった。5つか、6つ…かな。
寝着の大きさがあってないのか肩を出している。
ていうか、この顔はもしかして…


「苗字?」
「…んー?」
「兵助、いつ苗字の子供産んだの」
「何で俺が産んでんの」
「否定はしないんだ…!」



まあ冗談だけど。
つまりそれくらいに目の前の子供は苗字に似ていた。
こんなに騒いでるのにまた寝ようとしている神経の図太さとか、そっくり。


「ああほら、寝ないの」
「眠たいのー…」


よいしょっと、苗字に似た子供を抱き上げると子供は驚いて目を見開いた。
それからぺたぺたと自分の顔を触る。


「…小さくなった」
「へ?」
「不破、おれ小さくなったみたい」
「……てことは、苗字?」
「正真正銘、苗字名前くんです」








本日二度目の絶叫。今度は雷蔵だった。
兵助ならともかく、雷蔵ならば駆け付けなくてはならないだろう。
私は急いで雷蔵の元へと向かった。

雷蔵の元へ駆け付けると、そこにはこちら(入口)に背を向けて座って固まっている雷蔵がいた。
どこからか幼い子供の声がする。


「雷蔵、どうした?」
「ああ鉢屋か。ちょっと不破をどうにかしてくれ。さっきから動かないんだ」
「は?」


ひょこっと顔を出して代わりに返事をしたのは小さな子供だった。
どうやら雷蔵が抱いているらしい。
苗字に似ているな…。


「雷蔵、いつの間に苗字の子供を…」
「ち、違うよっ!」
「そのくだり流行ってんの?」


冗談もほどほどにして。
苗字に似た子供はいったい何なんだ。そして苗字はどこへ行ったんだ?


「おれが苗字だよ、鉢屋」
「あっはっは、面白い冗談を言う子供だな」
「…なんで信じてくんないんだよ」
「いや、無理だ」
「……じゃあ、どうすれば信じてくれんの」
「名前じゃないと知らないこととか話してくれれば」


そうかだったら…と子供は考え出した。
雷蔵はまだ固まっているようだ。雷蔵、苗字好きだもんな。顔が赤い。
あ、好きってそういう意味じゃないはず、多分。
子供が悩んでいる間に正面へ回る。
うわ、こうやって見ると雷蔵と兄弟みたいだ。
ほっぺぷにぷにしてそう…
思わず突こうと手が伸びると、あ!と子供が何か思いついたらしくこっちを見た。慌てて手を引っ込めた。




「アレの大きさ言えば良いだろ?1番おっきいのが…」
「うわぁぁああ落ち着けぇ!」
「何で下ネタに走るんだよ」
「だって裸の付き合いする仲だからこそ分かることじゃないか」
「なにごちゃごちゃ騒いでんだー?って苗字っぽい子供がいるぅう!!」



ああもう騒がしい!
生物委員会のえさやりが終わったハチまでやってきて、混乱は更に大きくなった。
どうすれば良いんだ!
とりあえず苗字(仮)を医務室に連れていけば良いのか?
そもそも医務室で大丈夫なのか!?



「なあ、不破」
「な、何?」
「おれ腹減った」




この騒ぎの当人である苗字(仮)が1番落ち着いていることに、この子供は苗字なんだと何故か思ってしまった。
だって苗字はこんなヤツなんだ……!

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