「ごめん。そんなこと考えたことない」



さらり

もうちょっと、もうちょっとだけ優しさが欲しかった。
分かっていたさ、フラれることくらい。ただ仲は確実に進展してたし今日のことでしっかり浮かれてたんだ。ちょっと希望を持ってしまったんだ。
がっくりと俺はうなだれた。人生(平成含む)で初めての告白はあっさりフラれました。


「ご、ごめん」
「いや良いんだ。俺は分かっていた。フラれることくらい予想していたさ」

こんなあっさりだとは思ってなかったけど。



「…名前のことそういう風に考えたことないのもあるけど、僕は、名前は孫兵と付き合っているものだと思っていたよ」
「伊賀崎ぃ?」
「だって仲良いじゃないか」
「どこが」


俺は伊賀崎のことが苦手なのに。
三之助も藤内も、どうして伊賀崎のことばっかり言うんだ。


「仲良いっていうか、夫婦みたい」
「はあ?」


どこが夫婦みたいなんだ。どうして伊賀崎なんだ。俺はなにもしていない、伊賀崎が勝手についてくるだけだ。
…こういうの、好きな人に言われるの結構しんどいな。




「藤内、俺お前にフラれたけどこれから可能性はあるか?」
「無いと思うな」
「ははは良い笑顔」
「とりあえず、うどんの件は考えさせて。じゃ」





俺の幸せな未来さようなら!

べ、別に悲しくなんか…ある。
藤内は部屋を出て行ってしまい、俺はひとりぼっち。
誰か俺を慰めて。寂しい。






ポン



誰かが肩を叩いた。いつの間に入ってきたんだ。流石忍たま。
そっちを向くと、伊賀崎がいた。


「伊賀崎…」
「フラれたね」
「うるせえ」
「僕なら名前とずっといるよ。

「藤内よりも僕の方が良いよ。名前を悲しませないから。


名前が好き」




じっと伊賀崎は俺を見つめる。好きって言われたのは初めてかもしれない。伊賀崎は言葉じゃなくて行動で表していたから。
そうだ。伊賀崎は俺のことが好きだから、俺を悲しませることはない。
やっぱり、愛するより愛される方が…








「なんて言うと思ったか」
「ん?」
「俺は伊賀崎が苦手だよ。残念ながら」


いくら傷心だからって、ここで流されるわけにはいかねえ!
俺はまだまだ藤内のことが好きだし、これから伊賀崎を好きになるとは思えない。
きっぱり俺がそう言うと、伊賀崎はきょとんとした顔をした。それから目を伏せて、そっか、と言った。


「名前は藤内のこと諦めないんでしょ?」
「おう」
「だったら僕も名前のこと諦めないよ」





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