「よう、相変わらずちっちぇーな!」
「おはよう池田。大丈夫、僕は伸びるよ」


またやってしまった。目の前の人物はさらっと俺の言ったことを笑顔で退けた。
いつも通りただ挨拶しただけ、といった雰囲気を持ってヤツは食堂へと入っていく。言い忘れていたが、ここは食堂の前の廊下だ。

「くっそー…」
「三郎次、邪魔」
「左近…!」

左近が馬鹿にする目で俺を見る。しかし言い返すことはできない。なぜなら冒頭のようなやり取りを一日一回はしているのだから。
自分で言うのもなんだが、俺は素直になれない。本当はもっと話したいし、仲良くなりたいし、もっともっと…。
でも何でかこの口は言うことを聞いてくれない…!

「お前も不器用だよな」
「左近に言われたくねえよ」


今日こそは、今日こそはと俺は下唇を噛む。そんな俺のことも知らずにアイツは飯を食ってるんだろうな。ああくそ…!






「え、池田?池田ならきっと火薬庫だよ」


級友の四郎兵衛が僕のところへ来て池田のことを聞く。なんで僕に聞くんだろうと思ったけど、たいした問題でもないので気にしない。

「あーそっか、委員会か」
「多分ね」
「体育委員会無いからわかんなかった」

あはは、と笑う四郎兵衛に僕も笑う。すぐに火薬庫へ向かわないところを見ると急ぎの用ではないらしい。


「ね、一緒に三郎次のところ行かない?おいしいお団子買ってきたんだ」
「…いや、遠慮しておくよ」

四郎兵衛は眉を下げて僕を見た。僕、その四郎兵衛の顔好きじゃないんだ。泣きそうになる。

「きっと池田は、僕がいないほうが楽しいと思うし」
「違うよ、三郎次は…」
「僕のこと嫌いじゃないのはわかってるよ。でも、僕がいると池田は落ち着かないじゃない」


四郎兵衛は眉間にシワを寄せて、泣きそうな顔を見せてから走りだした。あーあ、泣かせちゃった。
本当は行きたかった。お団子だって食べたかった。けど、僕がいたんじゃ池田は自分でいられなくなる。そんな池田を見ているのは、僕自身辛かった。

僕は、池田が好きだった。だった、なんて言い方してるけど今も好き。




池田には、自分でいられる人を見つけてもらいたいんだ。 今日こそは、いつもの俺で話しかけたい。



一線違いでいつも辛い




2010.06.28
融解様に提出。
池田は、好きな人の前では緊張しちゃって素直でいられない。
主人公は、素の自分でいられる人と一緒になったほうが良いと思ってる。
そんな二人はすれ違い。お互い重度なので平行線上。



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