彼女は「生きたい」と言っていた。 言っておくが、彼女は"生きて"いる。正確に言えば"生かされて"いる。幼い頃色街に売られた彼女はそこを出ることなく外の世界を知らずにいた。 「ねえ三郎、私は外に出てみたい」 「外はお前が考えてるほど綺麗ではないぞ」 「綺麗でなくて良いの。三郎に会いたいの、触れたいの。貴方が生きている世界なら美しいの」 「私はお前が考えてるほど綺麗ではないぞ」 古い塀に空いた小さな穴から私たちは会話をしていた。だからお互い顔を知らない。名前と声しか知らなかった。 私が来る度、忍術学園であったこと雷蔵のこと後輩のこと、色んなことを話してやった。彼女は興味深そうに相槌を打つのだ。そしてその結果がこれである。彼女は外の世界に憧れを持っていた。 「なら、出してやろうか」 「本当に?」 「私は嘘は言わない」 三郎は、左腕に赤い布を縛りつけている人間が私だと言った。それを何度も頭の中で繰り返す。いつやいつやと待ち遠しい。 部屋に飾ってある花へと視線も向けたと同時に、ドドーンと大きな音がする。何事かと部屋を飛び出した。悲鳴と叫び声が耳に纏わり付く。 なに、なに、なにがあったの。 夢中で走ると外に出た。いつもは外に出ることを邪魔する男の人がいない。外へ出ようと門から顔を覗かせて辺りを見回した。人が一人、倒れていた。もしかして店の騒ぎに巻き込まれてしまったのだろうか。 大丈夫だろうかと恐る恐る近寄った。それはピタリとも動かない。 それは少年だった。自分と同じくらいだろうか。同年代の男を見るのはこれが初めてになる。 少年は重傷を負っていた。更に少年を観察する、私はどうすれば良いかわからなかった。 そして目に入った、左腕の赤い布。 「……三郎、?」 まさか、と名前を呼ぶと少年は小さく声を漏らした。声だけで三郎を判別していた私が言うのだ。間違いない、少年は三郎だ。 「三郎、ね、大丈夫…?死なない?さ、ぶろっ…」 「…死なないさ……私は嘘をつかな、い」 「やだ、三郎、死んじゃヤダ」 「…言っただろう?外は綺麗ではないって」 私は理解した。三郎があの騒ぎを起こしたのだと。私を外へ出してくれるために。 でも違う、私はこんなことを求めたんじゃない。私はただ三郎に会いたかったの。三郎と一緒にいたかったの。 外へ出たかったんじゃないの。三郎が傷ついてまでそうしたいとは思わない。 三郎がいなきゃ意味がないの! 「さぶろ…っ」 「お前は綺麗な顔をしているんだな」 そう言って私に触れた三郎の手を私は握る。三郎を助けなきゃ、医者を求めて私は走り出した。 2010.03.19 The mind song様に提出させていただきました。 ブレイクアウト!のストーリーが大好きです。原曲はミクとマスターは会うことができませんでしたが、この小説では幸せになってもらいたいと思いながら書きました。 |