私が彼を好きな理由





簡単な理由だ。一目惚れである。

私が掘った穴をせっせと埋めている姿を見たのが最初だった。
ぼーっと彼より少し離れたところで立って彼を見ていると、彼は私に気付いた。私が耡を持っているのを見て私がその穴を掘った人間だと分かったんだろう、埋める手を休めて私の方にやってきた。


「この穴はお前が掘ったのか?」
「はい」
「じゃあお前が綾部か」
「、はい」


おやまあ、私の名前を知っていたらしい。
彼は眉を少し下げて、ぽんぽんと私の頭を撫でて笑ってこう言った。




「立派な穴で埋めるのが大変だよ」



そう言われて初めて、私は彼を見た。
さっきまでは彼ではなく、彼の行動を見ていたのである。
彼は珍しい髪色をしていた。タカ丸さんのような色。だけどタカ丸さんより偽物みたいな色だった。


「名前」
「ん?」
「名前、教えてください」
「俺の?苗字名前だよ」




結局、はっきりした理由なんてなくて。
彼の何かに惹かれたのか、今になってもよくわからない。
けれど私は彼が好きなのです。
たとえ彼には既に富松作兵衛という恋人がいたとしても。




綾部喜八郎の場合






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