おくびょうもの




苗字が臆病者だと、私は知っていた。
だから行動が他のヤツよりも小さいのだ。
ほんのわずかであるから、それに気付く者は少ない。




「苗字っ!
お前が凜さんを泣かせたんだ!」



理不尽に八左衞門が苗字に迫る。
勝手に泣いたのは向こうじゃないか。
告白されて好きじゃないからと断って何が悪いんだ。
苗字は何も言わない。表情も変わらない。


「何か言えよ…っ!」


苗字は何も言わない。
何か言って八左衞門に嫌われるのが怖いからだ。
私はどうすれば良いんだろうか。止めるべきか。
悩んでいると、私の横を雷蔵が通った。



「ねえ、はち」
「何だよ」
「苗字が何をしたの?」
「凜さんを泣かせた」
「どうやって?」
「……」
「苗字は優しいから、そんなことはしないよ。はちも知ってるでしょ?」



有無を言わせない雰囲気を纏った雷蔵が八左衞門に迫る。
悪かった、と小さく言って八左衞門は掴んでいた苗字の胸倉を離した。
あ、苗字泣きそうな顔してる。


「あの人、泣いてたの?」
「苗字?」
「ねえ竹谷、あの人は泣いていたの?」



どうして、
どうしてあの女のことなんか気にするんだ。



「ああ、どうしよう。泣かせる気は無かったのに。泣かせないつもりで言葉を選んだのに」



嫌いなんじゃないのか?
苗字はあの女が嫌いだから私は、私たちは…。

雷蔵と顔を見合わせる。雷蔵も信じられないといった顔をしている。

苗字はどうしよう、と狂ったように呟き続けている。
そんな苗字知らない、と八左衞門は変なものを見るような目で苗字を見ながら後ずさっていく。




なあ、苗字。
お前の優しさはあの女にも与えてしまうのか?







「どうしよう」







それを言ったのは、誰かわからない。




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