「ほら、言ったでしょう」 俺にしか聞こえないくらいの大きさの声で、作兵衛はそう言った。 何のことを言ってるのか最初はわからなかったけど、この女のことを言っているのだと分かって頷いた。 まさか食満先輩が俺に仕事を頼んでくるては思わなかった。 ちょい恨むぜ。 この女はちゃっかり俺たちの側に座り込んで、仕事してるのをニコニコしながら眺めている。 「何でか知らないですけどね、たまにいるんですよ。中心になって回る人物が」 「うん」 「実際そんなこと無いんだとは思いますけどね、どうもそう見えちゃうんです」 「いるね、そういう人間」 まあつまり、この女だ。 こんなにしあわせなのは、ありえない。 「よし、直った」 「わ!ありがとうございます!」 「しばらくは壊れないはずだから」 「はいっ!」 お礼に茶わん蒸し、またおまけしてくれるらしい。 それはありがたく受け取っておくことにしよう。 餌付けされてる?…そんなこと無いもんね! 鍋を持った彼女は鼻歌を歌いながら食堂の方へ戻っていった。 うわ、すげー懐かしい曲。 俺しか分かんねえだろ。言わないけど。 「嬉しそうですね、×××さん」 「だな。よく分からん」 「……そうですね」 「作兵衛、今晩暇か?」 「え?はあ、暇ですけど…」 「じゃ、俺の部屋おいで」 あの女はしあわせだけど、俺もしあわせだよ。 だってほら、こんな可愛い恋人に出会えたんだから。 最初は室町に落とされて腐ってたけど、作兵衛に出会えたことでそんなことどうでもよくなった。 (それと同時に自分にそのケがあることに絶望した) 気に食わないものはスルーするのが俺だ。 あの女は極力スルーするんだ! そうすればきっと、俺は平凡にしあわせになれるんだ。 続・知らんぷり 2009.12.08 |