知っていた。 鉢屋が、不破が、綾部が、作兵衛が! 彼らが何かを企てていることは知っていた! それがあの女に対してのものだというのも知っていた。 だから俺は止めなかったし、詮索もしなかった。 俺はあの女が大嫌いだったから。 嫌いな理由は、室町に慣れてきた俺に平成を思い出させるから。 もう俺は諦めたの。 だから俺は逃げた。平成から逃げた。 あの女は何も悪くなかった! ザッ…ザッ… ああもう、綾部と作兵衛に組まれると面倒だ。 立派な穴を掘りやがるし、綺麗に埋めやがる。 まず見つけるのに凄く苦労した。 そして耡を持ってくれば良かったと後悔した。 随分と掘った。一度掘った場所だから土は柔らかい。 何かが見えた。 いつも彼女が着ていた着物の色だ。 もう少し掘ってみた。柄がはっきり見えた。 更に掘る。もう見たものを口には出せない。 ああ、これは紛れなく彼女だ。 「すみません」 「貴女は何も悪くなかった。貴女も不幸に落とされただけだったのに」 もう一度、すみませんと言って優しく土をかけた。 死んでしまったのだ。もう何もできない。 生きていたならば、平成に戻してやる方法を考えてやれたかもしれない。 ああどうして俺はこんなに子供で臆病だったんだろう。 俺が臆病だったために、人が一人死んでしまった。愛しい人に殺しをさせてしまった。 もし俺がもう少し大人であったなら。 もし俺がもう少しはっきりと意思を伝えていたならば。 もし俺が もし俺が… 彼は狂ったようにもしもを繰り返す。 女は冷たくなって土の下。 彼女を埋めた人間は学園で、彼女を捜そうと騒いでいる人間たちを傍観。 もしもを繰り返し続ける彼はしあわせを疑い始める。 あの時考えたしあわせが今あるのに、しあわせを感じられなかった。 全て、手遅れだった。 了 2009.12.16 |