俺は臆病な正義感を持っています。
正義感というのでしょうか。それはよく分かりません。
目障りな、この学園の秩序を乱すあの存在を何度消そうと試みたか。
苦無を握って、対象の背後を取って振り上げます。けれどそれが振り下ろされることはありませんでした。

平成で生きてきた軟弱な俺には、平成から来た何もできない対象を殺すことはできなかったのです。
殺したあとの罪悪感に押し潰されそうで、
皆に愛されている対象を殺したことで向けられる憎悪に押し潰されそうで、
結局、その苦無が対象に触れることはなかったのです。



仮にも忍者なのですから、と俺も考えるのですが出来ないのです。
平成の考えを捨てられずにいるのです。


今もそうです。
臆病な俺は、きっぱりと言い捨てることができないのです。



「私、苗字くんが好きですっ!」





どうしてこの人は俺に興味を持ってしまったんだろう。
俺のことを多数の一人だと思ってくれたのなら、俺も楽だったのかもしれません。

返事は決まっています。
けれどそれをどう伝えようかと私は考えているのです。
それはもう無惨に言い捨てたい気持ちでいっぱいなのですが
もしそうした場合、この人は泣き崩れて学園の皆は私を責めてくるでしょう。
それがとても怖いのです。
だから、なるべく優しい言葉を使わなければならないのです。
なんと面倒くさい。



「すみません…その」
「…ううん!気にしないで!」
「あの」
「時間くれてありがと!またね!」



あの女は駆けて行きました。
多分あれは泣いているでしょう。
けれど大丈夫でしょう。
俺が恐れている事態は免れるでしょう。




臆病な僕は




2009.12.10

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