「ねえ、岳羽。湊が部屋から出て来ない」 「あー…そりゃあ…ねえ?」 「そ、そうだね…」 どうして苗字くんはこんなに鈍いのかしら。周りで見てる方にしてはとてもわかりやすいのに。だって有里くん、苗字くんにだけ態度が違うじゃない。 「……まあ良いや。じゃ、行ってきます」 「いってらっしゃい」 諦めて苗字くんは出かけていった。多分、有里くんに挨拶したかっただけなんだろう。今日は綾時くんと遊ぶって言ってた。ううん、"今日は"じゃない。"今日も"だ。苗字くんがいなくなってロビーに沈黙が訪れる。今は風花と私の2人しかいない。 「苗字くん、綾時くんにべったりだよね」 「あれは苗字くんがべったりなんだよね」 「多分ね。有里くんは苗字くんが好きなのに」 「……ねえ」 その好きがどういう意味を持っているのかまでは知らない。ただ、見ていれば分かるのだ。 有里くんは拗ねたかのように部屋に篭っている。きっと今日は部屋でずっとネトゲーでもするのだろう。 「……見てるこっちがハラハラだっての」 「少女漫画みたいだよね」 「…男しかいないのに?」 「うん」 → |