「……寒い」
「しばらく来ない間に寒くなったね」
「冬だかんな」
「うん。冬は寂しいね」
「……そうだな」


 何週間か振りに訪れたこの場所は相変わらずで、そのことに安心した。ほんの少し離れていただけで、この街に拒絶された気がした。


「…行こうか」



 今日は大晦日、綾時が有里たちにまた来ると言った日だ。宣言通り彼らは再びここに現れた。少し顔つきが変わった彼らは巖戸台分寮に向かって歩き出す。

「名前くん」
「うん?」
「僕は君と居られてよかったよ」
「……うん」
「できるなら、君に殺してもらいたかった」

 その苗字は返さない。綾時と一緒に過ごして、終わりから逃げられないこと、綾時との別れから逃げられないことはわかった。でも認めたくないものは認めたくないので苗字は目を逸らす。




「……湊、怒ってるだろうなぁ」


「怒ってるよ」


「湊!?」


 声がしたほうを見れば、確かに怒っているといった雰囲気を持つ有里が立っていた。マフラーに顔を半分ほど埋めて、白い息を吐いていた。綾時を見れば驚いているのか硬直したまま動かない。


「え、なんで…朝早いのに」


 今は早朝だった。人目につきたくないという理由で始発でここまでやってきた。案の定、人は殆どいなかった。



「この時間に帰ってくると思ったから。おいで、時間まで休むといい」


 起きてるのはコロマルくらいだと思うし、と付け足して有里は二人に背を向けて歩き出した。慌てて苗字は綾時を引っ張って追いかけようとする。


「…名前くん」
「……あや?」
「……」


 苗字の手を掴んだ綾時は俯いたまま何も言わなかった。そうしている間にも有里は先に行ってしまう。どうしようと苗字は綾時と有里を交互に見る。ああ、有里が離れていく。



「望月」


「早く来い、朝飯を作ってやるから」



 そう言って少しだけ笑った有里に綾時は踏ん切りがついたのか歩き出す。一歩先を歩く綾時を見て、苗字はようやく気づいた。





――今日で、お別れなのだと






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